研究実績の概要 |
2020年度は、予定通り運動量分解のスペクトルについて考察した。最初の解析であるので、まずは集団励起性が比較的小さいと思われる V=3Tの場合を扱った。ここで、モデルは計画全体において用いているスピンレスフェルミオンモデルであり、V, T はそれぞれ、最近接サイト間電子斥力エネルギー、最近接サイト間電子ホッピングエネルギーである。この場合は最低光学励起は比較的鋭いピークとして光学伝導度(運動量ゼロに対応)に現れ、それはいわゆる励起子であると解釈される。この運動量分解スペクトルを計算してみると、比較的大きな運動量依存性、すなわち分散が見られ、この状況下の励起子はそれなりに動ける実体を有すると解釈された。
次に、散逸が存在する系について1次元系を例にとって概念的な整理を行った。特に問題となるのはドメイン、もしくはドメイン壁がある場合であり、後者の自由度を取り出すといわゆる量子波束の問題となる。一般に散逸の問題は、いわゆる密度演算子に対する運動方程式(リウビル方程式)を用いて定式化されてきたが、そこでは密度演算子の行列要素そのものの熱平衡状態からのズレに対する減衰因子として散逸効果が定式化される。一方、波束運動においては、密度演算子の(Kk, Kk') という成分のコヒーレンス(位相の揃い具合)が最も重要な役割を果たす。(ここで、K, k はそれぞれ重心、及び相対運動量。) まず、この(k, k')対にインコヒーレンスがあると波束はスムーズに移動しない。そしてこの効果は表式から分かるようにKに依存している。このような2つの効果が相俟ってドメイン壁運動、もしくは、ドメイン成長が決まっていくという新しい見方を呈示することが出来た。
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