研究課題/領域番号 |
17K05513
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
佐藤 正寛 茨城大学, 理学部, 准教授 (90425570)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 超高速スピントロニクス / トポロジカル光波 / 光渦 / 角運動量の転写 / フロケ理論 / トポロジカル磁気欠陥 / マルチフェロイクス / 非平衡定常状態 |
研究実績の概要 |
2017年度は、主に(1)トポロジカル光波の1つである光渦レーザーを利用した、カイラル磁性体とマルチフェロイック磁性体におけるナノ磁気構造の超高速制御方法の理論提案、(2)熱浴と結合している周期外場中の量子系の非平衡状態と物理量のフロケ理論に基づく理論解析、の2テーマの研究を集中的に実施した。特に、テーマ(1)の主役である光渦レーザーは軌道角運動量をもつ電磁波であり、スピントロニクスを含む固体物理学における非常に新しい題材といえる。光学分野では、光渦の軌道角運動量をマクロな物体に転写する多数の方法が提案・実現しているが、固体物性分野では光渦の応用の可能性が全く検討されてこなかった。(1)の研究では、光渦の軌道角運動量の情報をカイラル磁性体やマルチフェロイクスに転写する方法を提案しており、これは、光渦分野とスピントロニクスを含む電子物性分野を結び付けるほぼ最初の理論研究成果と言える。
(1)(2)の他に、スピントロニクスと関連するテーマとして、(3)フラストレート磁性体におけるマグノンペア励起による熱ホール効果の理論、(4)マグノン以外の磁気励起による熱的スピン流輸送についての実験家との共同研究、などにも取り組み成果を挙げている。
本研究課題と関係ある内容の2017年度出版論文として、(a)alpha-RuCl3の熱伝導についての論文(Physical Review B(R); Editors' Suggestion)、(b)光渦レーザーの軌道角運動量の磁性体への転写についての論文(Physical Review B(R))、(c)スピン軌道相互作用を持つ1次元トポロジカル絶縁体における磁気共鳴を利用したエッジ状態の検出方法についての論文(Physical Review B)がある。これら以外にも、上記(1)-(4)研究に関する論文作成が順調に進んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の目標は、幅広い周波数の電磁波(特にコヒーレントなレーザー光)を利用した超高速スピントロニクス機能を微視的理論に基づいて提案することである。「研究実績の概要」欄の説明から分かるように、この目標に合致する多数の研究が着々と進んでいることから、研究は予定通り順調に進んでいると言える。
また、本課題に密接に関係する熱や力学操作や電気的作用を利用したスピントロニクスの研究も同時に進行しており、今後これらの研究における結果やアイディアを融合させていくことで、さらに新しい成果が得られると期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度は、まず「研究実績の概要」欄に説明した(1)-(4)のテーマを引き続き継続してゆく。特に、外部電磁場により固体磁性の制御する際、電磁場照射によるヒーティング(系の温度上昇)の効果は実際の物理系では避けることが出来ない重要な現象である。これに有意義な解答を与える為に、「研究実績の概要」欄のテーマ(2)に集中的に取り組む予定である。(2)の成果が得られたのちには、それを様々な具体的物理系に応用することも計画している。マルチフェロイクスや少数スピン系や単一原子分子系などにおける光誘起現象に(2)の成果を応用する予定である。
これらのテーマの他に、新しい光誘起磁気現象の予言や理論構築を目指して、(5)レーザー照射下の磁性体における磁気共鳴の理論、(6)磁性体における多光子吸収の理論、のテーマにも取り組む予定である。
これらの研究を効果的に推進する上で、光物性、スピントロニクス、磁性などの光と磁性に関わる複数分野の実験研究者と議論をすることが重要と考えている。これらの研究者との議論から、最新の情報を収集し、それを理論計算に反映させることで、現実性の高い予言を得ることを目指す。
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