研究課題/領域番号 |
17K05513
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
佐藤 正寛 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 准教授 (90425570)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 非線形光学効果 / スピン流整流 / 高次高調波 / テラヘルツレーザー / マグノンペア / トポロジカル光波 |
研究実績の概要 |
2019年度は、主に(1)フラストレート強磁性体のスピンネマティック液体におけるスピンゼーベック効果の研究、(2)DC(または低周波数)強電場による磁性体の交換相互作用の制御法の提案、(3)ベクトルビームの磁性体を中心とする物性系への応用、(4)強電磁波駆動DCスピン流整流法(スピン流班太陽電池)の理論的提案、(5)1次元量子磁性絶縁体における高次高調波発生の理論、などの成果を挙げた。
これらは全て論文として出版済みであり、また多くの研究会でそれらの内容を紹介・解説した。
以下では、本研究課題の最重要な成果と言って良い(4)の内容について解説する。光を利用したデバイスの代表例として太陽電池が挙げられる。光は振動電磁場であり、1方向を指定する能力はない。にもかかわらず、太陽電池において特定の方向に電流が整流されるのは、物質側が方向を指定する特性を持つためである。対称性の観点から言えば、光整流を起こすには物質が反転対称性を破っている必要がある。実際、太陽電池の基礎構造はp型n型半導体の接合系であり、まさに反転非対称である。我々は、この太陽電池のスピン流バージョンの可能性を理論的に探索した。すなわち、太陽電池の「可視光、半導体、電流」を「テラヘルツ(THz)波、磁性絶縁体、スピン流」に変更したデバイスの実現可能性を解析した。単純かつ現実的系として、反転対称性の破れた量子スピン鎖模型と反強磁性体(またはフェリ磁性体)模型を設定し、これらの系の磁気励起エネルギーに匹敵するフォトンを持つTHzレーザーを印加した際のDCスピン流を定量的に計算した。非線形応答理論を駆使してスピン流を解析した結果、実験室で実装可能な高強度THzレーザーにより、スピノンまたはマグノンによる観測可能な強度のスピン流が流れ得ることを示した。これはスピンポンプとは異なる新しい光スピントロニクス現象の予言と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本来今年度で本研究課題は終了であったが、新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け、多くの研究会が中止となり、想定外に旅費が使用不可能となってしまった。しかし、それ以外の面については、「研究実績の概要」欄にも示した通り、順調に成果が得られており、本研究課題はうまく進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
上記「現在までの進捗状況」に書いたように、新型コロナウィルスの影響を除いて、本研究課題は順調に進展している。国内外の研究会において積極的にこれまでの成果を公表し、また昨年度までのレーザー駆動現象の研究を発展させることで、順調かつ継続的に本研究課題が進展すると予想される。それゆえ、これまでの方針を継続していくつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ感染拡大により、多くの研究会が中止となり、年度末に予定していた研究成果の発表と情報収集活動ができなくなったため、残額が生じてしまった。成果の発表機会を失ったこと以外は研究活動は順調に進んでいる為、2020年度にこの残額を研究会参加や研究成果の発表に関わる費用などに使用する予定である。また1年間本研究課題が延長されたことを考慮に入れて、専門書などを購入し、さらに研究を発展させる。
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