研究課題
本研究では、希釈冷凍機を用いた超低温・高磁場での電子スピン共鳴(ESR)と核磁気共鳴(NMR)の二重磁気共鳴システムを用いて、動的核偏極(DNP)による核スピン「超偏極」状態を生み出すこととNMR検出感度を従来の二重磁気共鳴用共振器よりも向上させることが肝要である。昨年度はDNPにより最大50%の核偏極を得ることに成功し、新たな共振器デザインを2種類試作してそれぞれESR信号とNMR信号の検出に成功した。そこで本年度は、DNP偏極度をさらに向上させる取り組みとともに、実際に二重磁気共鳴測定に挑戦した。(1)昨年度開発したファブリペロー型共振器に平面型NMRコイルを付加したタイプでは、コイルと試料の間にはNMR用のラジオ波は透過しつつESR用のミリ波は反射するための金薄膜を置く必要がある。この薄膜の最適な厚みを探索した。電気抵抗測定により低温でのskin depthを見積るとともに、実際に異なる数種類の厚さの薄膜を用いてNMR測定を行った。ESR周波数でのskin depthと同じ程度の厚さが良いことがわかった。(2)DNPによる核スピン偏極を効率よく引き起こすために、より磁場均一度の高いマグネットを導入した。併せて、共振器の共振特性の良いところにうまく合わせる手順を見直した結果、核偏極度は80%を超えた。(3)上記の成果をもとに、超低温二重磁気共鳴測定を行った。電子-核二重共鳴(ENDOR)信号の測定に成功し、これによりNMR周波数を割り出した。このNMRコイルを含む回路の共振周波数をこの周波数に合わせておき、DNP状態を作り出したうえでone-shotのNMR測定を行ったところ、DNP-NMRを示唆する信号を得た。(4)抵抗検出型ESR装置を実現するための装置開発を行った。液体ヘリウム温度でESR信号の検出に成功した。
3: やや遅れている
二重磁気共鳴測定はほぼ成功しており、本研究にとって非常に重要な成果が得られた。しかしながら、EDMR測定装置開発は実際に極低温でESR測定できるところまですすんだが、EDMR信号検出にはいたっておらず、やや遅れている評価とした。この要因として、昨年度報告のとおり、希釈冷凍機の不具合(コールドリーク)が発生して修理が必要だったうえに、新たなマグネットを導入するために時間を要したことが挙げられる。
EDMR測定装置の改善をはかる。そのためにミリ波強度がさらに強いものを入手する必要があるか検討する。また、電極の作成方法の改善については既に検討しており、着実に作業と試験をすすめる。また、DNP-NMR信号の検出の再現性を確かめる必要がある。
希釈冷凍機の不具合の修理や新しい磁場発生用マグネットの設置などのために液体ヘリウムを用いた実験ができない期間が生じたため、翌年度に一部の実験を延期したため、次年度使用額が生じた。次年度に多く実験を行い、主に寒剤代として使用する計画である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (22件) (うち国際学会 7件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Applied Magnetic Resonance
巻: 49 ページ: 783~801
10.1007/s00723-018-1027-9
Journal of Physics: Conference Series
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http://t-profile.ad.u-fukui.ac.jp/profile/ja.07084f479258e1d9520e17560c007669.html