研究課題/領域番号 |
17K05515
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
菊池 彦光 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (50234191)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スピンフラストレーション / 磁気的性質 / 電気的性質 |
研究実績の概要 |
本研究では、金属的電気伝導性を示す S = 1/2 二次元三角格子反強磁性体 Ag2NiO2に対して、従来の高圧合成法ではなく水熱合成法による簡便かつ低コストな方法で電荷ドーピングを行った試料を作成し、ドーピングに対する磁性、電気伝導性変化を系統的に調べることで、スピンフラストレーションが伝導性に与える影響を実験的に検討する事を目的としている。本年度は当初の計画通り、Ag2NiO2の試料合成を中心に研究を行った。これまでAg2NiO2について水熱法による作成は報告されているが、合成の最適条件については調べられていない。本年度は出発試料、反応温度、反応時間を様々に変えた試料を合成して、最も結晶性のよい試料が得られる条件を明らかにする事ができた。さらに電荷ドーピングのために、Agイオンを一部、CdイオンあるいはHgイオンに置換した試料を作成した。試料評価は粉末X線回折により行い、格子定数と元素置換量とが相関する事を示した。元素置換した粉末試料の磁化率測定を行い、磁気転移温度以下でのふるまいがスピングラス的である事を見いだした。これらの得られた結果について、日本物理学会2017秋季大会および日本物理学会北陸支部定例学術講演会にて報告した。比較研究のため、Ag2NiO2と同じく二次元三角格子磁性体であるCu2(NO3)(OH)3(ルーアイト)の磁気的性質を研究した。磁化率、比熱、強磁場磁化測定により、これまで研究されていなかった性質を明らかにし、得られた成果を第18回低温国際会議(ヨーテボリ、スウェーデン王国)において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度においては、二次元三角格子反強磁性体Ag2NiO2及び関連物質について、水熱合成による試料合成とその評価を行い、磁化率等の巨視的な物性測定を手がける予定となっている。その予定どおり、試料合成の最適条件を決定する事ができた。関連試料として、当初予定していなかった新物質Ag2VO2の合成も試みた。また当初の予定どおり、電荷ドーピングの試みとして、Agイオンを他のカチオンに一部置換した試料を合成することもおこなった。得られた試料の磁化率、比熱測定を行い、巨視的物性を明らかにした。電気抵抗測定については試料台(サンプルパック)の断線や端子付けのための電気伝導性ペーストの劣化などのトラブルがあり、十分な測定ができなかったため、次年度に持ち越すこととした。予定では二年目から電子スピン共鳴(ESR)等を用いた測定も行う事としている。そのため本年はESR装置の開発も行い、極低温での測定を行える環境が整えられた。水熱合成容器として従来テフロン製のものがよく使用されているが250℃以上の高温では使用できない。最近開発されたテフロンを炭素繊維で強化した容器はより高温まで使用可能であるため今回の研究で炭素繊維強化容器を用いた高温での合成を試みた。その結果、容器以外同一条件にした場合でも異なる物質が得られることがわかった。これまで合成容器の材質については注意が払われてこなかったが、今回の結果により容器材質も反応に影響することがわかった。
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今後の研究の推進方策 |
ほぼ計画通りに研究遂行できているため、基本的には申請書に記載した方向で研究を推進していく。以下、具体的に記述する。 1)Ag2NiO2に対する電荷ドーピングを目的とした元素置換試料作成。一年目は銀イオンをカチオンに置換した試料合成を行った。今年度はその方向に加えて、酸素イオンをフッ素イオンに置換した試料作成を試みる。試料評価は1年目と同じく、X線回折により行う。Ni化合物以外に、Ag2CoO2などのコバルト化合物(およびそれらに対するドーピング試料)についても合成を試みる。 2)磁化率、比熱、電気伝導率といった巨視的物性測定。これらの諸物理量をPPMS,MPMS等の現有装置を用いて測定する。特に、電気伝導率は1年目は装置不調のため十分に測定できなかったため、注意深く測定を行う予定である。 3)磁気共鳴手法を用いた微視的物性測定。1年目にある程度整えたESR測定環境、測定装置を用いてESRスペクトルの温度変化、磁場変化を測定し、スピンダイナミクス及び磁気秩序に関する情報を得る。 4)電子構造計算の準備。近年の計算機能力向上により、電子構造の第一原理計算は専門研究者のみならず、実験研究者も含めた広い層に対してルーチンワークに組み込まれつつある。本研究においても物性予測に資するため、電子構造計算の標準的コードであるWien2kを用いた計算環境を整えていく。今年度はWien2kのセットアップから実際に対象とする物質に対する計算を実行できる状態までにする計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、電気抵抗測定を行うために予定していた、低温実験が、1)2月の福井大雪のために実施できなかったこと、2)実験装置に若干トラブルが生じた(「7.現在までの進捗状況」に記載)こと、といった事情のために行えなかった。本実験では有償の液体ヘリウムを使用する必要があるが、そのための寒剤費が未使用のために残った。この次年度使用額は、当該年度に行えなかった測定を、翌年度分として請求した助成金と合わせて行うために使用する予定である。
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