電子スピンが三角格子状に配置した場合、電子間に反強磁性的相互作用が働くと、スピン系は安定した状態をとることができずフラストレートした状態になる。このような状態において電子が遍歴的性を持つと超伝導状態を含む興味深い特性が生じる可能性がある。本研究が対象としたAg2NiO2はS=1/2を担うNi3+イオンが三角格子を形成し、しかも金属的な伝導性を示す二次元三角格子反強磁性体である。従来は特殊な高圧合成法で試料が得られていたが、本研究ではより簡便かつ低コストな水熱合成法を用いて試料を合成し、電荷ドーピングに対する磁性、電気伝導性変化を調べてスピンフラストレーションが伝導性に与える影響を検討する事が目的である。 Ag2NiO2を水熱合成で作成できることを確認し、その磁性および電気伝導率を測定して既報の結果と比較した。さらに、Ag2NiO2のAgサイトをAgとはイオン価数の異なるCd、Hgで一部置換した試料、Oサイトをフッ素イオンで一部置換した試料を合成し、それらの物性評価も行った。試料評価は粉末X線回折で行った。物性測定結果がドーピング量と必ずしも相関しない場合があることがわかった。その原因の一つとして、試料作成において、銀の微粒子が析出することがあげられる。 Ag微粒子析出を抑制するために試料合成条件をさまざまに変えて合成を試みたが、最適条件の割り出しには至らなかった。 一方、2019年に、本研究が対象とする化合物と同じくNiが平面上に配置したNd1-xSrxNiO2において超伝導発現が報告された。この課題は緊急性があるので、関連した層状化合物NdSrNiO4の酸素サイトをフッ素に一部置換した試料合成を行い電荷ドーピングを試みた。その結果、Fドープ量に対して絶縁体‐金属転移温度が変化する事を見いだし、NdSrNiO4の電子状態を制御できる可能性を見いだした。
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