研究課題/領域番号 |
17K05517
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤本 聡 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (10263063)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | スピン流 / 超伝導 / スピントルク / トポロジカル励起 |
研究実績の概要 |
(1)スピン3重項超伝導と強磁性接合系におけるスピン3重項クーパーによるスピントルクについて研究を行い、スピン超伝導流による非断熱的なスピントルクが、通常の電流による場合とは大きく異なる磁壁の駆動ダイナミクスを生み出し、無限小の電流でもコヒーレントな磁壁の駆動が可能になることを明らかにした。本結果は磁気スカーミオンや磁気モノポール等のトポロジカル欠陥のコヒーレントな駆動・制御にも応用でき、これら磁気トポロジカル欠陥に由来する新奇素励起の研究にも有用である。 (2)ワイル超伝導における格子変形由来の擬似的カイラル磁場が、トポロジカル励起であるワイル準粒子に及ぼす効果について研究を行なった。実際の磁場が無くても、格子変形のみによってワイル準粒子のランダウ準位、量子振動が起こり得ることが明らかになった。本研究によって、電荷を持たない準粒子でも、格子変形由来の多様な擬似的電磁気現象が可能であることが明らかになり、このアイデアは量子スピン液体中の電荷を持たない新奇素励起にも適用できる。新奇素励起を検出するための擬似的電磁気現象を実現する重要なヒントを与える結果である。 (3)ディラック超伝導において格子変形由来の擬似的カイラル磁場が、準粒子だけではなく、クーパー対にも重要な影響を及ぼし、擬似的磁場に平行な方向に超伝導電流や超伝導スピン流を誘起することが明らかになった。本結果によって、擬似的電磁気現象が準粒子だけでなく、その束縛状態にも重大な効果をもたらすことが示され、将来のスピン励起の束縛状態の擬似的電磁応答の研究につながる成果である。 (4)キタエフ・スピン液体における磁場誘起のマヨラナ粒子のエネルギーギャップに対する、一般的な交換相互作用やDM相互作用の効果について研究を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来の秩序変数では特徴付けできない量子スピン液体状態を実験的に確立するには、その状態に固有の素励起をいかに検出するかが重要であり、その方法を理論的に確立することが本研究課題の重要目標である。しかし、スピン液体状態に特徴的な素励起は、通常の電荷、および通常のスピンすら持たず、従来の磁気的観測手法による検出が困難である。それゆえ、格子変形に由来する擬似的な電磁応答を実現し、これによって新奇素励起を検出することが非常に有力な研究手法となる。本課題の2017年度の研究では、この方面で、多くの重要な成果が得られた。例えば、ワイル準粒子、ディラック準粒子に対して得られた結果はキタエフ量子スピン液体状態で実現するマヨラナ粒子に拡張・応用できる。今後のこの方面での研究を展開する糸口が得られたと言える。 また、最近、キタエフ量子スピン液体の候補物質であるα-RuCl3では京都大学理学部の松田研究室の実験によって、キタエフ・スピン液体の重要な特徴である量子熱ホール効果が観測されているが、量子化が観測される温度領域が、熱ホール効果を担うマヨラナ粒子の磁場誘起エネルギーギャップと比べて高すぎるのではないかという疑問点がある。この点に関連して、我々は現実的なスピン模型による磁場誘起エネルギーギャップの大きさについて検討しており、従来の理論計算で得られていたエネルギーギャップよりも著しく大きいエネルギーギャップが実際には実現している可能性を示唆する予備的結果を得ている。この計算を今後、精密化して、上記の問題の解決に向けて研究を前進させていくことが可能になった。以上の理由により、本課題の目的達成に向けて、着実に研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究成果を踏まえ、以下の点について研究を進める。 (1) キタエフ量子スピン液体の候補物質であるα-RuCl3の現実的なモデルである、通常の超交換相互作用とジャロシンスキー守谷相互作用を含めた系に、磁場を印加することによって生成させるマヨラナ粒子のエネルギーギャップについて、詳細な理論計算を進めていく。前述の非キタエフ型相互作用と磁場が絡むことによって、マヨラナ粒子に与える影響を調べる。最近の松田グループ(京大理)の実験で得られた量子熱ホール効果の観測結果に関する疑問点(量子化が観測される温度領域とマヨラナ粒子のエネルギーギャップの大きさとの関係等)を解決することを目指す。 (2) キタエフ量子スピン液体のマヨラナ粒子に由来する熱ホール効果以外の現象を探索する。2017年度の研究で得られた格子変形由来の擬似的電磁応答に関する新しい知見をキタエフ量子スピン液体状態におけるマヨラナ粒子に応用することを試みる。マヨラナ粒子のランダウ準位、熱伝導における量子振動、カイラル磁気効果、負の熱磁気抵抗、熱電応答(擬似的ゼーベック効果、擬似的ネルンスト効果等)などの可能性を理論的に探求していく。 (3) 量子スピンアイス系に特徴的な新奇素励起である磁気モノポール、スピノン、電気モノポール等に対する格子変形由来の擬似的電磁場の効果について研究を進めていく。これらの素励起に由来する新規な輸送現象、電磁応答の可能性を探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に国際会議が多数あり、これらに代表者と院生を多数派遣する経費を十分に確保するため、2017年度の経費を次年度の使用額に回した。
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