研究課題
鉄をベースとした合金には,線膨張係数が小さいインバー効果や負の熱膨張がみられるものがある.インバー効果の最新の理論では,non-collinearな磁気構造の磁気体積効果が熱膨張を相殺するモデルが提唱されているが,合金中において,熱膨張に直接関与するボンド長や原子対のポテンシャルが磁気状態や圧力によってどのように応答するかについては,実験的に調べられていない.そこで,X線吸収分光によりボンド長と結合ポテンシャルの圧力変化を元素選択的に決定することで熱膨張が抑制される機構を明らかにする.H29年度は,Fe-Niインバー合金,Fe-Ptインバー合金,圧力誘起のFe-Niインバー合金の弾性特性を広域X線吸収微細構造(EXAFS)を用いて,元素選択的に測定した.これらの試料をアーク溶解により作成し,XRDにより組成と規則度の評価を行った.EXAFS測定は放射光施設SPring-8のBL39XUで行った.測定の結果,Fe-Niインバー合金,Fe-Ptインバー合金,圧力誘起のインバー合金の元素選択的な体積弾性率の導出に成功し,並行して測定したXRDからバルクの体積弾性率も導出した.現在,EXAFSの解析を進めており,Fe周り,Ni周りなど元素選択的な局所構造の導出と,その圧力変化の比較を進めている.また,得られた成果を幾つかの研究会で発表している.また,これに関連して指導学生が国際会議(1st international workshop of Emergent Condensed-Matter Physics 2018 (ECMP2018))において,ベストポスター賞を受賞した.
2: おおむね順調に進展している
H29年度に行ったSPring-8での実験において,計画していた試料を準備でき,それらのEXAFSプロファイルも精度よく測定できている.まだ解析途中の段階だが,元素選択的な弾性率に有意な差が見られており,現在インバー特性との関連を調べている.このため概ね計画通りに進んでいると考えている.
現在,第1近接だけでなく,第2近接以上の原子対を考慮した精密なEXAFSの解析を進めている.その結果から元素別に異なる局所構造が導出できれば,論文化を進める予定である.また,H30年度後半にも,2回目の放射光実験を計画している.その測定では,組成を変えたインバー合金のEXAFS測定,Fe-Pt合金の圧力誘起の磁気転移点における圧縮率に着目する予定である.
現有設備で研究が円滑に進行したために,次年度使用額が発生した.次年度は,高圧セルのセットアップを効率よく進めるために,実体顕微鏡などの試料まわりの設備を充実させる計画である
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すべて 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)