研究実績の概要 |
スピネル型クロム酸化物ZnCr2O4に局所格子歪を導入した混晶(Zn,Cd)Cr2O4、およびZnCr2O4の磁性Crサイトを希釈した混晶Zn(Cr,Ga)2O4について、多結晶を用 いた直流・交流磁化率測定を行った。ZnCr2O4は、強い反強磁性相互作用(ワイス温度-400 K)を有しながら、低温(13 K)で立方晶から正方晶への格子歪を伴った反強磁性転移を示す。この磁気構造相転移は、スピン・格子結合を介して結晶の対称性を下げることで幾何学的フラストレーションを解消する、いわゆるスピンヤーンテラー転移であると考えられている。本研究での実験の結果、これらの混晶においては元素置換量の増加、すなわちボンドランダムネスの増強に伴い、支配的なフラストレーションが幾何学的フラストレーションからボンドフラストレーションへとクロスオーバーしていることが示唆された。 擬ブルッカイト型酸化物ATi2O5 (A = Fe, Co)について、単結晶を用いた超音波音速測定を行った。ATi2O5は斜方晶の酸化物であるが、磁性を担うFe2+, Co2+が擬一次元的なネットワークを形成する低対称な結晶構造を有する。 FeTi2O5(CoTi2O5)は、42 K(26 K)で反強磁性転移を示すが、この磁気転移はスピン・格子結合を介してフラストレーションを解消するスピンヤーンテラー転移であると指摘されている。本研究での実験の結果、ATi2O5においてスピンヤーンテラー効果の発現を示す弾性異常が観測された。スピンヤーンテラー効果は、上記のクロムスピネル酸化物ZnCr2O4など対称性の高い結晶構造を有するフラストレート磁性体で発現するものと考えられていたが、本研究の結果は対称性の低い結晶構造を有する磁性体においてもスピンヤーンテラー効果が発現することを実証するものである。
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