研究実績の概要 |
Ca2CrO4の合成条件を探索した。予想通り3 GPa程度の低圧にする必要があった。反応速度が著しく遅くなるため容易に単相試料は得られないことが分かったが、繰り返し高圧処理することにより単結晶が成長した。これを用いて結晶構造解析を行った。室温での結晶構造を決定した。CrO6八面体が回転している。Ca2CrO4の磁気測定結果によりSr2CrO4で想定されているt2g軌道の結晶場分裂の逆転はCa2CrO4においては生じていない可能性が高いことが分かった。2つの物質の結晶構造の違いから結晶場分裂の逆転はCr-O-Crの角度が180度の時に生じるのだろうとの解釈に至っている。2電子t2g電子系の軌道状態の理解に対する重要な知見である。 またスピン軌道相互作用と格子系の違いがどのように影響するかを調べるべきと考え、t2g電子系となる4d, 5d遷移金属酸化物群を2種類合成しその物性を調べた。一つは立方格子系となるCaCu3Ru4O12などである。RuをTiで置換することでRuの4d電子軌道とCuO4分子軌道との混成が減少しMott転移を生じることが分かった。またCaイオンを置換してRuの4d軌道上の電子数が増やすと、強磁性揺らぎが支配的な磁気的振る舞いから近藤効果的な振る舞いへ変化することが分かった。このような振る舞いは未だ知られておらず非常に意義深い。もう一つの物質群は六方晶系のA3M2O9 (A = Sr, Ba; M = W, Re)である。現在5d軌道に電子を持たないWの場合について結晶構造解析を終えたところである。5d電子をもつReの場合と比較することでt2g電子の役割を調べられる。なおA3W2O9は新物質である。A = Srでは珍しい逐次構造相転移が見つかっており、これら新物質の発見は結晶構造化学の観点からも重要な結果である。
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今後の研究の推進方策 |
2電子の場合との比較に用いる予定だった1電子t2g電子系のCa2VO4の合成が困難であることが分かったのでそれには拘らない。代わりに(Sr,La)3V2O7, (Sr,La)4V3O10, (Ba,Sr)3Re2O9を比較対象に加える。その他はほぼ元の計画通り。すなわち平成30年度は(Sr,Ca)2CrO4の巨視的物性測定及び光電子分光等の微視的測定を行う。翌年度は(Sr,Ca)3Cr2O7, (Sr,Ca)4Cr3O10を対象に同様の測定を行う。
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