研究実績の概要 |
主に成果発表のために当初の期間を1年延長していた。Sr3Cr2O7、Sr4Cr3O10単結晶による構造解析の結果からCrイオンのt2g軌道がどのように分裂しているかを詳細に考察した。その結果、Sr3Cr2O7では約200 Kの反強磁性転移以下でCrO6八面体がc軸方向に縮むことが分かった。これによりt2g軌道は低エネルギーのdxy軌道と高エネルギーの縮退したdyz、dzx軌道に分裂し、2つのd電子はdxy軌道に1つと縮退したdyz、dzx軌道に1つの電子が入ることとなる。dyz、dzx軌道の軌道秩序が生じていると期待できるが結晶構造解析からは軌道秩序の有無は判別出来ていない。Sr4Cr3O10には3層のCrO2面があるが、外側のCrと中心のCrの2サイトある。前者のCrO6八面体の歪み方はSr2CrO4と同程度でありSr2CrO4と同様に結晶場とは反対のt2g軌道の分裂が起こっていると考えられる。すなわちイオン描像ではdxy軌道に1つ、縮退したdyz、dzx軌道に1つの電子が存在することになる。一方、中心のCrO6八面体はc軸方向に縮んでおり、通常の結晶場分裂でもdxy軌道が低エネルギーになる。同様の傾向はSrCrO3ペロフスカイトでも見られている。Ruddlesden-Popper相Sr(n+1)Cr(n)O(3n+1) (n = 1, 2, 3, ∞)の全てで同様の傾向が見られていることからCrの4価は単純にdyz、dzx軌道を低エネルギーにした軌道自由度を持たない状態よりも、敢えてdxy軌道を低エネルギーにした軌道自由度を持つ状態を好むものと推察された。このような内容を中心に論文の投稿を準備中である。その他、関連物質であるMn酸化物ペロフスカイトの磁性を調べるなどのことも行った。
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