本研究の目的は、配位子サイトの非磁性元素置換によって生成した近藤空孔の微視的知見を得て、量子臨界金属における非フェルミ液体的挙動の統一的理解を目指すことである。近藤空孔とは、伝導電子とf電子との混成が切断された局所電子状態を意味し、バルク電子状態と混じらず、不均一な電子状態を形成する。昨年度に引き続き、反強磁性量子臨界点に近い強相関f電子系超伝導体CeCoIn5のIn元素を非磁性のZn元素で置換した系の115In核の核四重極共鳴(NQR)実験、核磁気共鳴(NMR)実験を行った。仕込み量でZn7%置換したCeCoIn5の単結晶で、反強磁性秩序と超伝導が共存することを、NQR緩和率測定で微視的に明らかにし、やはり不均一電子状態が実現していることが示唆された。本系の比熱や電気抵抗測定によって見出された磁場-温度相図における多重相を明らかにするために、極低温における磁場中Co核NMR実験を進めた。NMR緩和率の磁場依存性から5Tから8Tにかけて、常磁性相において極低温での緩和率発散は見られなかった。低磁場反強磁性相では転移温度における緩和率の臨界発散が見られ、これが長距離秩序であることを確認した。一方、高磁場反強磁性相では緩和率の明確な臨界発散やスペクトル形状変化は認められず、不均一な反強磁性秩序が起こっているかもしれない。また、Co元素をNi元素で置換した系で量子臨界現象が見られるという報告を元に、Ni置換系のNQR実験も進めた。純CeCoIn5に比べて、1K程度までのスピン揺らぎは抑えられていることを確認したが、さらに極低温において擬ギャップ形成を示唆する実験結果が得られた。
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