研究課題
筆者らの見いだした初めての価数揺動準結晶Au-Al-Ybは、圧力に依存しない量子臨界性を示すので、準結晶と「重い電子系」をつなぐものとして注目されている。この現象をより深く理解するため、新物質探索をキーワードとして準結晶および関連構造の構造・物性研究を進めてきた。(1)Zn-Mg-Al準結晶の超伝導。Zn-Mg-Al系で形成する正20面体準結晶、さらに1/1および2/1近似結晶が超伝導を示すことや、その転移点Tcの合金組成依存性を明らかにした。これは、準結晶と確定された物質における初めてのバルク超伝導である(Tc=0.05K)。準結晶における超伝導の最近の理論研究によれば、準結晶ではフラクタル超伝導と呼ばれる新しい状態が生じる可能性があり、さらなる研究が必要である。(2)2種類のAu-Ge-Yb近似結晶におけるYb電子状態の違いに関する研究。Au-Ge-Yb系には、組成がわずかに異なる2種類の1/1近似結晶が形成する。これらは中間価数のYbを含む近似結晶であり、超伝導(Tc=0.68Kと0.36K)を示すのでYbの電子状態について興味が持たれている。この2種類の近似結晶は、いずれもTsai型クラスターから成るが、一方は、Tsai型クラスターを構成する正20面体の12頂点にだけYbが配置しているのに対して、他方は12頂点の他にクラスター中心にもYbが位置している。これらYbの電子状態の違いを調べる目的で、7940eV、600eVおよび20eVのエネルギーの光(X線)を用いて光電子分光実験を行なった。その結果、後者に含まれるクラスター中心のYbは2価であるが、他のYbは価数揺動状態にあることが分かった。
2: おおむね順調に進展している
上述のようにZn-Mg-Al正20面体準結晶の超伝導やYb系の新規近似結晶であるAu-Ge-Yb系の特異なクラスター構造とそれに対応したYbの電子状態についての新しい知見を得た。しかし、新規準結晶の発見には未だ至っていないので研究を継続する必要がある。
昨年度と同様に、実験研究を中心に進めるが、新規準結晶の構造モデルについての幾何学的な考察も進める。具体的な、研究対象としては、以下のように「冒険的な研究課題」と「漸進的で比較的着実な課題」との二本立てで進める計画である。通常の合金試料作製と熱分析・粉末X線回折を用いたキャラクタライズを豊田理化学研究所内で行なう。高融点合金試料作製、電子顕微鏡を用いた構造研究、単結晶X線回折、低温物性の実験、構造安定性の理論的評価などを北大、名大、グルノーブル工科大学、スロバキア科学アカデミーなどの研究者との共同研究で進める計画である。(1) 冒険的な研究課題:希土類合金における新規正12角形準結晶の探索(2) 漸進的で比較的着実な課題:正20面体準結晶および近似結晶におけるクラスター構造についての研究。なお、それぞれの合金系に応じた試料作製法の検討も重要な課題の一つである。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件、 招待講演 3件)
Nature Communications
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