研究課題/領域番号 |
17K05526
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
市村 晃一 北海道大学, 工学研究院, 准教授 (50261277)
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研究分担者 |
松浦 徹 福井工業高等専門学校, 電気電子工学科, 准教授 (60534758)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 有機導体 / 走査トンネル顕微鏡 / 電荷秩序 / 超伝導 / 強相関電子系 |
研究実績の概要 |
走査トンネル顕微鏡(STM)装置の整備を行い、真空排気系を改良した。 有機導体beta"-(BEDT-TTF)4[(H3O)Ga(C2O4)3]C6H5NOの単結晶試料を電解法により作成した。得られた単結晶はX線回折により当該化合物であることを同定した。電子物性の評価として、電気抵抗と磁化率の温度依存性を測定した。電気抵抗測定では、140 Kにおいて電荷秩序の形成にともなう金属-絶縁体転移が観測された。また、7.5 Kにおいて超伝導転移にともなう電気抵抗の減少が観測された。磁化率測定では7.5 K以下でマイスナー反磁性が観測され、超伝導状態であることが確認された。 室温においてSTM測定を行ったところドナー分子像が観測された。BEDT-TTFドナーに対応するスポットは、beta"-型のドナー配列に対応しているとともに、スポットの形状と強度の違いからドナーサイトが同定された。 電荷秩序相である8 Kにおいて、走査トンネル分光(STS)測定を行った。典型的なトンネルスペクトルは絶縁体的な電荷秩序状態を反映する1 eV程度のギャップ構造を示した。また、トンネルスペクトルの空間変化から状態密度が場所により変化することが見出され、この変化はギャップの大きさによく反映されていることがわかった。詳細なSTSマッピングからギャップの大きさが1 nm程度の周期で変化していることが見出された。このことは電荷秩序相における局所的なギャップは電荷の不均化に対応することを示唆する。 本研究により電荷秩序相では局所的なギャップの大きさが電荷の不均化に対応するという新たな知見が得られた。また、STS測定が電荷秩序相において電荷分布を実空間観測する有用な手段であることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度中には単結晶試料の作成と電子物性の評価および室温におけるSTM測定までを予定していた。良質な単結晶が比較的短期間で得られたため、次年度に予定していた低温での電荷秩序相におけるSTM/STS測定を前倒しで遂行できた。その結果、ギャップの空間分布から電荷不均化を観測するという新たな知見が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
装置の整備として、トンネル電流検出系の改良を行う。 電荷秩序相において、さらに詳しくSTM/STS測定を行いドナーサイトごとの電荷分布を見積もることを試みる。 超伝導相においてSTM/STS測定を行い、超伝導ギャップの観測を試みる。精度の高いトンネルスペクトルを得て超伝導の対称性を議論する。電荷分布も同時に観測し、超伝導ギャップと電荷不均化との関係を明らかにする。これらの結果をもとに、この系の超伝導発現機構の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験環境の整備として、当初はSTM制御ソフトの更新を予定していたが、真空排気系で故障が生じ、この改良を優先させ、STM制御ソフトの更新は次年度以降に持ち越した。結果的には少額で済んだ。 ピエゾスキャナーの更新も予定していたが、メンテナンス法の工夫により劣化を抑えることができ早急な更新の必要がなくなった。この更新は次年度に行う予定である。
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