研究課題/領域番号 |
17K05528
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
土浦 宏紀 東北大学, 工学研究科, 准教授 (30374961)
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研究分担者 |
浅岡 類 東北大学, 工学研究科, 助教 (60780947) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 銅酸化物超伝導 / T'型構造 / 擬ギャップ / 電荷密度波 |
研究実績の概要 |
銅酸化物超伝導における課題として,T'型構造を持つ超伝導体におけるノンドープ超伝導転移の可能性と,T型構造を持つ系のアンダードープ領域で見られる擬ギャップ状態の起源解明の二点が挙げられる.前年度までの研究において,前者については一定の成果を上げることができ,理想的に還元処理がなされた試料においては,外的なキャリアドープなしでも超伝導転移が生じうることを理論的に示した. そこで今年度は,主に後者の問題について研究活動を行った.擬ギャップ状態は,はじめは超伝導転移温度以上で準粒子スペクトルにギャップ状の構造が見られることによりその存在が認識されたが,実験技術の進歩により,その後も2ギャップ構造やフェルミアークの存在,さらに最近では電荷密度波を伴うことまで確認された.これまでに様々な理論的解釈が提出されてきたが,擬ギャップ状態の特徴を断片的に捉えるにとどまっており,未だに満足すべき理解は得られていない. 擬ギャップ状態における電荷密度波の発見により,現在はペア密度波状態(PDW)と呼ばれる状態が一部の注目を集めている.この状態は2ギャップ構造や電荷密度波を定性的には記述可能ではあるが,一方で熱力学的に安定ではないという問題を内包している. そこで我々は,交替フラックス状態と呼ばれる状態に注目した.これは銅酸化物超伝導の発見後すぐに提案された状態であり,精力的に研究されたものの,準粒子スペクトルが非現実的な形状を示す等の問題点が指摘されていた.しかし,理論的模型に最隣接サイト間のキャリア遷移およびクーロン斥力相互作用を取り入れることにより,準粒子スペクトルは満足すべきものが得られ,かつ擬ギャップ状態で見られる実験的特徴がほぼ全て記述できることが判明した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題では,T'型構造を持つ銅酸化物超伝導体の低電子ドープ領域における超伝導転移の可能性を理論的に探索することを第一の目的に,続いてT型構造を持つ系における擬ギャップ状態に関する理論的知見を深めることを第二の目的として研究を進めてきた.その結果,第一の目的については研究計画の第二年度までにほぼ満足すべき結果を得ることができ,また,第二の目的についても,当初予定の最終年度の研究において予想以上の結果が得られた. このように,主たる二つの課題の進捗が計画以上に進展したことから,研究期間の延長を申請し,これらの結果を別種の手法により確認した上で,より信頼性の高い結果としてまとめ,国際会議や論文等で広く成果報告を行うこととした.
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今後の研究の推進方策 |
T'型銅酸化物超伝導体における低電子ドープ領域における超伝導転移の可能性は,揺らぎ交換近似と呼ばれる理論的手法を用いて解析した.この結果を確実にするために,Wannier局在軌道を基底関数とする変文モンテカルロ法を用いた解析を行い,既存の結果と合わせて成果報告を行う. 一方,交替フラックス状態による擬ギャップ状態の理論的解析は,繰り込み平均場理論と呼ばれる手法を用いている.これは強相関効果を有限温度においても解析できる簡便な手法であるが,一方で計算結果の信頼性については変分モンテカルロ法に及ばない.そこで,絶対零度において変分モンテカルロ法を用いて,繰り込み平均場理論による結果と相補的な解析結果を得ることにより,こちらも既存の結果と合わせて成果報告を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題では,主としてT'型構造を持つ銅酸化物超伝導体の低電子ドープ領域における超伝導発現の可能性を理論的に探索してきた.その結果,低電子ドープ領域のみならず,非キャリアドープおよびホールドープ領域にまで超伝導転移が生じうることを理論的に,かつ当初計画より約10ヶ月早い時期に示すことができた.そのため,令和元年度に購入予定であった計算専用機の必要性が消失した.そこでこれを次年度(令和二年度)使用額とし,本計画で得られた結果を別種の手法により確認して信頼性の高い結果としてまとめ,令和2年度に開催予定の大規模な国際会議において成果報告をするために用いることとした.
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