研究課題
重い電子系超伝導体CeCo(In1-xZnx)5では、亜鉛Znの混入によって超伝導転移点は抑制され、新たに反強磁性秩序が誘起される。その際、強いパウリ常磁性効果に起因して、超伝導転移点の減少に反し超伝導上部臨界磁場は抑制されないという他にはない特異性を示す。本課題では、その起源に解明するために、巨視および微視測定を駆使して磁場下での超伝導相や反強磁性相の性質を調べている。本年度はまず、本課題の準備段階から行っていたZnを7%混入した系に対する磁場下での巨視量測定を引き続き行った。その結果、この系において零磁場でみられる反強磁性相(AFM1) のみならず、それに隣接した磁気構造が異なると考えられる磁場誘起反強磁性相(AFM2) が発現し、後者の臨界磁場(BM2 = 10 T) 近傍で量子臨界揺らぎに伴う明瞭な非フェルミ液体異常が各物理量に現れることを発見した。さらに、比熱にみられる量子臨界揺らぎに対して行ったスケーリング解析から、Znを混入した系と混入していない系でみられる量子臨界揺らぎはほぼ同一の起源によるものであることを提案した。これは、CeCoIn5 とそのドープ系において、量子臨界揺らぎと反強磁性秩序の直接的な結びつきを初めてとらえた結果である。さらに、連携研究者や研究協力者の協力を仰ぎ、国際共同研究として微視測定であるミュオンスピン緩和および核四重極共鳴実験をイギリス・ラザフォード・アップルトン研究所をはじめ各研究施設で実行し、超伝導と反強磁性の相関に対し、おもに零磁場における微視的な情報を得ることができた。
1: 当初の計画以上に進展している
本年度は、微視測定を行う上で不可欠である巨視量における基礎物性測定を丁寧に行い、磁場誘起反強磁性秩序やその量子臨界揺らぎを発見することができた。さらにその実験結果を含め、この系の異常な超伝導物性に対する巨視量の分析や評価を迅速に行い、情報を連携研究者や研究協力者と共有することによって効率的な微視測定を行った。これについても継続的に成果を挙げることができている。
本年度に挙げた成果である、Zn7%混入した系での磁場誘起反強磁性秩序やその量子臨界揺らぎの発見によって、この系でみられる磁場下での異常物性には、強いパウリ常磁性効果のみならず、量子臨界揺らぎが重要な役割を果たしていることが期待される。つまり、このZn 置換系は反強磁性秩序およびその量子臨界揺らぎと超伝導に関する系統的研究が可能な系であることを示している。母物質であるCeCoIn5では量子臨界揺らぎにかかわる様々な異常物性が発見されており、その多くの起源は未解明である。よって次年度以降は引き続き、本課題の目標である強いパウリ常磁性効果にかかわる超伝導物性の解明を微視測定を用いて進めていくとともに、本課題をきっかけとして新たにCeCo(In1-xZnx)5の量子臨界揺らぎの機構解明を目指していきたい。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
Physical Review B
巻: 95 ページ: 224425-1-5
10.1103/PhysRevB.95.224425
http://ltphys.sci.ibaraki.ac.jp/