研究課題/領域番号 |
17K05530
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
太田 幸則 千葉大学, 大学院理学研究院, 教授 (70168954)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 物性理論 / 強相関電子系 / 励起子凝縮 / 励起子絶縁体 / 遷移金属化合物 |
研究実績の概要 |
令和2年度は、特に次の研究成果を得た。 (1) スピン1重項励起子系であるTa2NiSe5の励起子凝縮相が強結合励起子系であるという提案を検証するため、1次元拡張Falicov-Kimball模型の相転移温度以上における電子状態をクラスター平均場理論により解析した。光学伝導度スペクトルの温度依存性の計算結果から、転移温度より遥か高温から励起子形成に伴う異常なピーク構造が現れ、温度の降下と共にスペクトルが下方にシフトし、転移温度以下での大きなピークに成長するという実験結果をよく再現することが分かった。また、1粒子状態密度にも擬ギャップ的な構造が観測されることを明らかにした。この成果は学術論文として出版し、日本物理学会で発表した。 (2) キャリアドープされたスピン3重項励起子磁性体において、励起子凝縮が起これば純スピン流の生成が可能であることを、2次元2軌道ハバード模型の平均場近似と線形応答理論による解析から明らかにした。これは、スピン軌道相互作用なしに電子相関効果だけから純スピン流の生成が可能であることを理論的に示したものであり、その意義は極めて大きく、実験的な検証が期待される。この成果は学術論文として出版し、日本物理学会でも発表した。 (3) 1次元引力型ハバード模型に対して時間依存する周期的な外場を印加することにより、模型に内在する超伝導相と電荷密度波相の出現をコントロールできることを、時間発展ランチョス法により明らかにした。また、フロケ理論により上記の結果が理解できることを明らかにした。この結果は学術論文として出版し、日本物理学会でも発表した。 (4) 実験家グループとの共同研究により、関連する強相関物質の電子状態と相転移に関する研究を進めた。成果は2件の学術論文として出版された。 (5) 現時点で未完成の研究を再考し、本研究の更なる展開の方向性を模索した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本申請計画では、いま爆発的な展開の時代を迎えている相関電子系における励起子凝縮に関する研究を、基礎理論の構築から現実の物質に関する定量的な研究に至るまで、幅広く展開し、励起子凝縮が創出する新奇量子相研究に、開拓的な新展開をもたらす。すなわち、計画の3年間で、スピン一重項励起子系、スピン三重項励起子系、スピン軌道相互作用系の3項目の研究に総合的に取り組み、超伝導と並ぶフェルミオン系の対凝縮機構の学理を深化させるという予定であった。 令和2年度は、(1) 1次元拡張Falicov-Kimball模型の相転移温度以上における電子状態のクラスター平均場理論による解析、(2) キャリアドープされたスピン3重項励起子磁性体における励起子凝縮による純スピン流の生成に関する研究、(3) 1次元引力型ハバード模型への時間依存する周期的外場の印加による超伝導相と電荷密度波相のコントロール可能性の研究、(4) 関連する強相関電子系物質の電子状態と相転移に関する実験家グループとの共同研究、等を重点的に行った。そして、6件の学術論文を出版し、国内外で開催される学会・研究会等で多数の研究発表を行った。 しかしながら、新型コロナウィルス感染症の予期せぬ拡大のため、研究活動が様々な側面において抑制され、また学内業務において発生する様々な困難の解決に従事した結果、研究課題の遂行に十分な時間を割くことができない時期があった。それに加えて、ルテニウム酸化物系等で見られる様々な相転移の起源、特にその励起子磁性との関連の研究が予想以上に難しく、その進展が遅れているという状況にある。これを挽回するため、事業期間の更なる延長申請を行い、それが認められた。次年度は、「8.今後の研究の推進方策」に従って、これら不足分の研究を重点的に実施する。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、代表者に加えて、強く連携する研究者4名、海外の研究協力者4名、国内の研究協力者6名、計14名の連携により推進される。役割分担を決め、実験グループとも連携する。令和2年度は、当初3年間で計画していた研究を1年延長することにより、これまで十分研究が進まなかった研究課題を順次実行に移した。しかしながら、新型コロナウィルスの予期せぬ感染拡大のため、研究課題の遂行は順調には進まなかったので、研究期間を更に1年延長した。令和3年度は、下記の研究課題を順次実行に移し、本研究計画の全体を完結させる。 (1) スピン軌道相互作用系における励起子凝縮理論の新展開:Ca2RuO4における集団励起構造を3軌道ハバード模型の平均場近似と乱雑位相近似により計算し、非弾性中性子散乱実験の結果を説明する。また共鳴非弾性X線散乱実験の励起スペクトルを解析する。主な計算は既に完了しており、米国物理学会で発表した。現在は学術論文の執筆中である。この系および関連物質は、極めて多彩な現象を示すことが知られており、その解明を更に進める計画である。 (2) 励起子凝縮が導く新奇量子相理論の更なる展開:強結合励起子系として知られるTa2NiSe5について、実験家グループとの共同研究として逆光電子分光実験の解析を行い、非占有バンドの特異性に関する考察を進める。 (3) 時間依存ランチョス法を用いた拡張ハバード模型の解析から、光誘起によるd波超伝導の実現を提案する。 (4) 時間依存平均場近似を用いて励起子絶縁体における非線形光学応答の理論的研究を展開する。 (5) 今年度(最終年度)に得られた研究成果を学術論文として出版する。また国内で開催される学会・研究会等で発表し、国際会議で広く世界に公表する。その議論を基に今後の研究への更なる展開を計画する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、新型コロナウィルス感染症の予期せぬ拡大のため、研究活動が様々な側面において抑制され、また学内業務において発生する様々な困難の解決に従事した結果、研究課題の遂行に十分な時間を割くことができない時期があった。それに加えて、ルテニウム酸化物系等で見られる様々な相転移の起源、特にその励起子磁性との関連の研究が予想以上に難しく、その進展が遅れているという状況にある。これを挽回するため、事業期間の更なる延長申請を行い、それが認められた。これが次年度使用額が生じた理由である。従って次年度(最終年度)は、「8.今後の研究の推進方策」に記載した不足分の研究を重点的に実施し、この差額分を全額執行する計画である。
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