新型コロナウィルス感染症の予期せぬ拡大のため、研究活動が様々な側面において抑制され、また学内業務において発生する様々な困難の解決に従事した結果、研究課題の遂行に十分な時間を割くことができない時期があった。それに加えて、ルテニウム酸化物系等で見られる様々な相転移の起源、特にその励起子磁性との関連の研究が予想以上に難しく、その進展が遅れているという状況にあった。これを挽回するため研究期間の延長申請を行い、それが認められた。 この延長の結果、令和3年度は、遅れていた研究を幾つかの観点から補強することができた。特に、ルテニウム酸化物系等で見られる相転移の起源や励起子磁性との関連の研究が著しく進展した。この研究成果は現在学術論文として投稿中である。更に、近年注目されている相関電子系における非平衡ダイナミクスの研究に動機づけられ、励起子絶縁体のレーザー光照射による高次高調波発生の起源に関する研究を展開することができた点は、当初予想していた以上の展開だったと言える。 延長を含めた研究期間5年間の全体としての研究成果は次の通りである。相関電子系における励起子凝縮の研究が爆発的な展開の時代を迎えているが、本科研費の申請者グループは基礎理論の構築によりこの分野の理論研究で世界を先導してきた。本科研費研究の目的は、これを土台として、励起子凝縮が創出する新奇量子相研究に開拓的な新展開をもたらすことであった。すなわち、当初計画の研究期間3年間と延長したの2年間で、スピン一重項励起子系、スピン三重項励起子系、スピン軌道相互作用系の3項目の研究に総合的に取り組み、超伝導と並ぶフェルミオン系の対凝縮機構の学理を深化させることができた。すなわち、本科研費研究で得られた成果は、分野の垣根を越えた多大な波及効果をもたらすものであり、物質科学における普遍的な概念の創出に貢献できたと考えている。
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