研究実績の概要 |
(i) 圧力下交流(AC)比熱測定技術の開発 非常に信頼性の高いキュービックアンビル型圧力発生装置に搭載可能な比熱測定方法を開発した.温度圧力範囲は2-200K, 0-15GPaである.測定用熱量計は試料のほかヒータと温度計の2つの主要部品で形成される.ヒータは市販のストレインゲージや,chromel細線,銀ペーストなどを採用し,温度計は広い温度領域での感度を担保する為AuFe-chromel熱電対を採用した.これらを熱的に接着させる接着剤はstycast2850, epotekT7110,同H20sなどを使い,圧力媒体はグリセリンを採用した.測定はヒータに交流電圧を印加し,熱電対で発生する2倍波成分の振幅と遅延位相を温度圧力の関数として測定した.この2つの量を,Sullivan等によって1968年に議論された熱浴と比較的強く結合した熱モデルに従って解析を行うと,比熱が求まる.
(ii) 圧力誘起超伝導体の圧力下AC比熱 共に絶縁相から超伝導相に圧力誘起転移するBaFe2S3(常圧下ではMott絶縁体)とbeta-Na0.33V2O5(電荷秩序絶縁体)の単結晶を用い熱量計を作成し,広範囲の温度圧力領域でAC比熱測定を行った.BaFe2S3で超伝導相とMott絶縁体相が隣接する臨界圧力領域で超伝導転移温度よりも高温で比熱の増強が観測された.これはBaFe2S3でなんらかの圧力誘起転移があることを示し,理論サイドから提唱されている軌道選択的なモデルでのクロスオーバー現象では説明できない.さらには明確な対称性の破れを伴う相転移のあるbeta-Na0.33V2O5でも,臨界圧力近傍の比熱増強が観測され,更に電荷秩序転移と超伝導転移をも明確に観測することに成功した.特に興味深いことは,圧力の関数としての超伝導転移温度と比熱増強のoptimum圧力が,共にずれているように見えることである.
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