研究課題
ディラック電子系が実現する有機導体a-(BEDT-TTF)2I3塩の圧力下13C NMRの測定を行った。この物質は常圧低温では電荷秩序絶縁体となり、加圧によって絶縁相が消失するとディラック電子系が現れる。測定圧力は常圧からディラック電子が出現する領域まで行った。研究初年度にあたるため、まずマッシブディラック相の可能性のある圧力領域を見出そうというものである。まず磁場を試料の伝導面に対して平行になるように印加することによって、軌道自由度(ランダウゼロモード)の影響を排除した状態で行っている。室温付近では、温度の効果により二次元電子系と見なせる振舞いをした後、より低温では急速に緩和時間、ナイトシフトの減少を観測した。これはディラック電子系のバンド構造に期待されるものである。さらに低温にすると電子相関の効果により、ディラックコーンの先鋭化をナイトシフトの温度依存性から再確認した。これに対して緩和率の温度依存性はナイトシフトとコリンガの関係式から期待されるそれよりも大きく増大し、それが低温になるほど顕著になることを見出した。これは、質量ゼロのディラック電子系が低温において電子相関の効果から質量を獲得する前駆現象の可能性がある。増大は傾いたコーンををもつディラック電子系特有の電子散乱によるという理論とも良い一致を見せており、マッシブディラック相の探索に重要な手がかりを得ている。これらの結果を論文や国内外の会議で発表している。加えて、圧力セルも小型のものを利用することによって、強磁場中でも試料の回転を可能とすることによって磁場を伝導面内で回転してみたり、ランダウゼロモードが顕著となる磁場配置でも測定を行っている。外部磁場もソレノイド型を利用してより強磁場下での測定を行うなど、様々な磁場条件での測定を試みている。
1: 当初の計画以上に進展している
NMRの緩和率とシフトの解析から低温において異常な緩和率の増大を見出した。これが、質量ゼロの状態から質量を獲得する過程を見ている可能性がある。当初、マッシブディック相の可能性のある領域を見出すのには、圧力依存性の測定をおこなうため、1年以上の時間が必要と考えていたが、予想よりも早く見出すことができた。
測定をさらに加速させる。昨年度見出した緩和率の増大がマッシブディラック相に関係したものかどうかの検証が必要となるため、より高圧で電子相関の程度を制御をした際に、低温での増大はどのようになるのか、より低温では増大はどのような振舞いをするのかを中心に研究を進めていく。
マッシブ相の可能性のある領域の探索が当初の見込みよりも順調に進んだ。そこで、現有装置によって研究計画に従って研究を進め、その結果を学会などで公表し議論を深めることも同時に行ったため、当初計画の額との差が生じた。次年度は、圧力、温度領域をより拡大した測定を行う。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 3件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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