研究実績の概要 |
2軌道がカップルした系において相互作用を起源とする現象を理論的に解明する目的のもと、本年度は以下の2つの成果を得た。 スピンクロスオーバ錯体を対象に、2つの状態(高スピン、低スピン)をとる錯体ユニットの間の弾性相互作用を導入した弾性モデルを解析した。これは最も現実に近いシンプルなモデルである。錯体が状態に応じて大きな体積変化を起こすことに着目し, 圧力下の2層系においてエンタルピー(体積効果), エントロピー, エネルギーの兼ね合いから, ごく自然な形でこのような2段転移が起こることを数値的に示した. 本研究計画の主な対象であるダイマーをユニットとしたスピン系において、ダイマー内外のハイゼンベルグ相互作用に加えて、リング交換相互作用を考慮し、厳密対角化および解析計算を用いてその相図を明らかにした(論文投稿中、学会発表済)。相図には、スピンシングレット相のそばに、スピンネマティック相が出現する。スピンネマティック相はこれまで強磁性状態の近傍でしか観測されていなかったが、本研究で新たにこの相を実現する系が提案できたことになる。 この系で重要な役割を果たすリング交換相互作用は、具体的には2軌道ハバードモデルにおける4次までの縮退のある摂動論によって 得られるものである。この相互作用の大きさを具体的に摂動論によって検証し、さらにリング交換相互作用からスピンネマティック相互作用の起源となる biquadratic相互作用が誘起されるプロセスを明らかにした。またこの相互作用の強さがクーロン相互作用 と遷移積分の比 U/t~5程度で Heisenberg相互作用と十分同じオーダーまで強められることを示した。
|