研究課題
本年度は量子ダイマー系をはじめとする量子多体系において、有限温度の磁化率や比熱などを計算する際に、熱的状態がどのような性質を持つかという一般的な基礎論の問題に取り組んだ。その先には効率よく正確に熱力学量を2次元系で計算することが可能かどうかという現実的な課題がある。もともと熱的状態はギブス状態であらわされるような混合状態である。だがうまく基底を選びだすことにより、1つの純粋状態で熱的状態を表すことができることが2006年前後から具体的に定式化され、これを熱的純粋量子状態と呼ぶ。今回、ギブス状態と熱的量子純粋状態の間に、無数の熱的量子混合状態が存在するという描像を提示し、その質を定量化する理論を提案することができた。具体的に熱的状態を作る際、ランダムな初期状態から出発して、虚時間発展を行うランダムサンプリング法がある。何個のランダムサンプリング、つまり古典混合を取る必要があるかは、得られた量子状態がおのおのもつ純粋度に依存している。しかし実際に状態を作ってみるまでは、どのような純粋度を持った状態ができるかは、近似度、システムサイズ、波動関数の表現形式に強く依存する。そこで、未知のランダムサンプリングで作られる量子状態を、その波動関数のノルムから計算される「規格化された分配関数の揺らぎ」NFPFという物理量から、実際に測定する方法を解析的に編み出すことに成功した。NFPFが大きいと分配関数がランダムエラーから不正確となり、そのぶん計算の効率が下がって多くのサンプリングを必要とする。この直感的な描像と整合するようにNFPFはランダムサンプルの数と比例する。系の純粋度もNFPFのみを使って表すことができるため任意の虚時間発展をもとにした手法で、波動関数の純粋度を定量化することができるようになった。
2: おおむね順調に進展している
今回は基礎的な理論を作ることを主眼に置いた研究を行っておりおおむね今年度の目標は達成できた。
今後2次元系の具体的な計算、およびMPSを使った計算で2次元にアプローチする方法を計画している。
本年度も世界的な感染症により、海外出張ができず、国際会議も来年度に複数延期された。そのため今回の成果を具体的に国際会議で発表するための旅費やそれにかかわる経費などを次年度使用額として利用する。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 2件、 招待講演 6件)
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