研究課題
本年度は東京大学物性研究所仕様のパルス磁場中磁歪測定システムを立ち上げた。測定手法はキャパシタンス法で、信号検出手段には数値位相検波法を用いた。現状ではΔL/L換算で10^-6程度の分解能を実現している。本年度はこれを用いて、希土類化合物SmB6について低温での磁歪測定を行った。この物質は電気抵抗が低温に向け上昇するも最後は飽和傾向を示すことからトポロジカル絶縁体である可能性が指摘されている。トポロジカル絶縁体は表面に導通があり内部は絶縁体の性質をもつ。一方、磁気トルク測定で量子振動が観測されており角度回転の結果からこれが表面の効果ではなくバルクの性質であるとみなされている。これらが仮に共に正しいとすると、バルクの性質が絶縁体でありながらフェルミ面を持つということになり伝導電子とは異なるフェルミ粒子系が存在する可能性が考えられ新たな物理の展開が期待できる。一般にバルクの性質を見るためには表面の効果に極力鈍感な測定が望ましい。一般に試料に一様に磁化が発生する場合は磁場に垂直方向からは押され磁場平行方向には引っ張られる応力が働くので磁歪として現れるはずである。他方表面のみに磁化が現れる場合は内側からと外側からの応力が打ち消し合うため体積変形はほとんど起きないと考えられる。従って、磁歪測定において量子振動が観測されたならばそれは角度回転の実験を行うまでもなくバルクの性質と結論づけることができるはずである。その場合、磁歪測定はこのような系の検出手段として有力な方法であることが実証できる。そこで本研究ではバルクの量子振動の存在を追試すべく、この物質の単結晶試料の縦磁歪を1.4Kにおいてパルス強磁場中(~54T)で測定した。残念ながら、実験精度の範囲内では量子振動の観測には至らなかった。本研究の内容は日本物理学会2018年年会において研究代表者三田村が発表を行った。
2: おおむね順調に進展している
SmB6については期待通りの結果に至らなかったが、本年度は何よりも東京大学物性研究所仕様のパルス磁場中磁歪測定システムを立ち上げ実際の運用ができた。これは次年度以降、様々な物質・テーマに応用が期待できる。
SmB6の測定ではΔL/L換算で10^-6程度の分解能しか実現しなかったが、これはたまたま測定方向に対し試料長(0.6mm程度)が短かいものしか入手出来なかったためであり、試料の長さを十分大きく(~10mm程度)取れば10^-7程度が容易に実現できる。Bi単結晶では、量子極限(強磁場極限)でバレー分極が起きている可能性が指摘されており、これを検証する上で磁歪測定は決め手となることが理論的に予想されている。これに必要とされている分解能がまさしく10^-7程度であり、まずはこの物質から測定を始める予定である。その他、磁歪測定が役に立つテーマが見つかれば適宜測定を行ってゆく予定である。
本年度は垂直分解能16bitのオシロスコープの購入を予定していたが、既存のものにモジュールを追加するだけで済んだため予定より安く上がった。他方、磁歪測定セルの作成に必要な石英部品などの消耗品が予定よりも多く入り用になり最終的には相殺するものと思われる。
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Nature Communications
巻: 9 ページ: 408 (7 pages)
10.1038/s41467-018-02857-1