研究課題/領域番号 |
17K05538
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
赤津 光洋 新潟大学, 自然科学系, 助教 (10431876)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | マルチバンド超伝導 / 鉄系高温超伝導 / 電気四極子 / 超音波計測 / 弾性定数 / 静水圧力 |
研究実績の概要 |
縮退したマルチバンドを持ち横波弾性定数C66が巨大なソフト化を示す正方晶系鉄ヒ素超伝導体Ba(Fe1-xCox)2As2の超伝導の発現機構を明らかにするため、量子臨界点近傍と思われる仕込み量濃度x = 0.075の試料の常圧下でのC66の測定を行った。C66は、150 Kから23 Kまで約60%の巨大なソフト化を示し、23 Kで急速にハード化した。この振る舞いは、超伝導転移によるものであると考えられ、超伝導だけを示す濃度の試料としては、x = 0.075の試料のC66は非常に大きなソフト化を示したことが分かった。四極子感受率のキュリーワイスの式により解析した結果、四極子-歪み相互作用のエネルギーが他の濃度の試料と比較して約1.5倍と突出して大きいことが分かった。この結果から、超伝導が現れる量子臨界点近傍では四極子-歪み相互作用が著しく発達すると考えられ、超伝導の発現機構に四極子が重要な役割を果たしていること強く示唆している。 立方晶A-15系V3Siは、3次元的で複雑なマルチバンド構造を持ち、横波弾性定数(C11-C12)/2が巨大なソフト化を示す超伝導体で、その超伝導の発現機構を明らかにするため、試料依存性を確認するための実験を行った。以前、申請者らのグループで超音波実験を行った試料では、構造相転移点を往復させるごとに実験結果が変化し、試料の純良度を示すRRRが下がる現象が現れた。V3Siの新たな試料を作成し、電気抵抗測定と超音波実験を行った。その結果、この新たな試料では、構造相転移を何度か経てもRRRが変化しないことが分かった。また(C11-C12)/2は先行研究と同程度の巨大なソフト化を示した。これは、V3Siは欠陥などに非常に敏感であることを改めて示唆している。 これらの結果を、日本物理学会などで発表を行い、現在、静水圧下超音波実験を推進している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題では、静水圧力下で弾性定数と超音波吸収係数を測定する超音波実験を行うことにより、マルチバンド超伝導体Ba(Fe1-xCox)2As2とA-15超伝導体V3Siにおける電気四極子や回転効果を明らかにし、マルチバンド超伝導体の超伝導の発現機構の解明を目的としている。 Ba(Fe1-xCox)2As2では、特徴的な性質を示す母物質、構造相転移を示す試料、構造相転移と超伝導を示す試料、超伝導だけを示す試料に加えて、量子臨界点に非常に近い濃度を持つx = 0.075の試料の常圧での超音波実験を行い、弾性定数C66の巨大なソフト化を観測し、解析を行い、その結果を日本物理学会で発表した。 V3Siでは、以前の実験で結晶の劣化のような現象がみられたため、新たな試料で電気抵抗や超音波の実験を行い、その新たな試料ではほぼ劣化がみられず、V3Siが結晶の欠陥などに敏感で試料依存性が強いことを明らかにし、その結果などを学会で発表した。 一方、静水圧力セルを用いた静水圧力下超音波実験を進めようとしたが、29年度に低温実験のための液体ヘリウムを供給する大学のヘリウム液化機がほぼ半年ほど故障等で停止していたため、試料の選定や常圧下の実験などが30年度にずれ込んだため、少々遅れが生じている。現在、静水圧下超音波実験を推進している。
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今後の研究の推進方策 |
ヘリウム液化機が現在順調に稼働しており、鉄系超伝導体Ba(Fe1-xCox)2As2とA-15系超伝導体V3Siの新たな試料の選定を終えて、量子臨界点に近い濃度の試料から順次静水圧力下超音波実験を行っている。実験計画が若干遅れていることを考慮し、静水圧力セルが壊れない圧力(2GPa以下)を優先して静水圧下での弾性定数と超音波吸収係数の測定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
寒剤である液体ヘリウムや実験に必要な消耗品、学会発表や打ち合わせなどの旅費の支払いに予算を使用したが、年度末間際の液体ヘリウムを使用した実験のマシンタイムの調整や会計の〆切の問題で予算丁度に使い切ることができなかったため、次年度に持ち越すことにした。持ち越した予算は、実験に順次推進している超音波実験用の液体ヘリウム代として使用する。
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