研究実績の概要 |
縮退したマルチバンド構造を持つ超伝導体の超伝導の発現機構を解明するため、横波弾性定数C66が巨大なソフト化を示す正方晶鉄ヒ素超伝導体Ba(Fe1-xCox)2As2に注目し、静水圧下超音波実験を行った。最終年度では、前年度に見いだした量子臨界点近傍のヤーンテラーエネルギーが他の濃度の試料と比較して約1.5倍と突出して大きいCo濃度x = 0.075の試料で静水圧実験を行った。C66は、常圧では1/Tに比例したキュリー的で巨大なソフト化を示したのに対して、約1 GPa静水圧下では1/Tから大きく外れた振る舞いを示した。前年度までに明らかにしてきたように、C66のソフト化は強磁場やCo濃度の変化に対して鈍感であったのに対して、非常に対照的な振る舞いである。これらの実験結果は、超伝導が現れる量子臨界点近傍で四極子-歪み相互作用が著しく発達すること、及び、超伝導の発現機構に四極子が重要な役割を果たしていることを強く示唆している。 さらに研究を進めるため、励起子絶縁体候補物質1T-TiSe2の超音波実験を行った。1T-TiSe2は、三方晶の結晶構造で縮退したマルチバンド構造を持ち、約200 Kで構造の変化をともなう電荷密度波(CDW)転移を示す。Cu添加や静水圧力により量子臨界領域で超伝導を示すことから注目した。横波弾性定数C44は単調に増加してCDW転移では小さな異常しか示さなかったのに対し、C66はCDW転移に向かって20 %以上の急激なソフト化を示した。Tiの3d軌道に注目すると、電気四極子を持つdyz, dzxの二重縮退軌道があるため、その四極子感受率であるC66がソフト化することを説明することができる。これはBa(Fe1-xCox)2As2と似通っており、今後静水圧下の実験を進めていく予定である。 これらの結果は、日本物理学会や国際会議などで発表を行った。
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