研究課題/領域番号 |
17K05540
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
瀧本 哲也 新潟大学, 自然科学系, 教授 (80397794)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | パイロクロア化合物 / トポロジカル状態 |
研究実績の概要 |
多自由度の系の構築のために、正四面体の角にs電子軌道を置いた際に現れる全ての粒子-正孔対を構成し、それらを正四面体の点群Td(結晶軸に対応した点群)の既約表現に分類した。この場合、64種類の粒子-正孔対演算子が現れ、その中の3つは恒等表現に属し、それぞれ、全電子数密度演算子とホッピング演算子と反対称スピン軌道結合演算子に対応する。この他に、時間反転について奇でA2表現に属するAll-In-All-Outスピン配列の演算子や、電子が四面体のある稜に集まろうとする分極演算子などが挙げられる。電子系の単位胞が四面体を含むような場合、1つの単位胞にこれらの粒子-正孔対が定義されることになるから、これらの粒子-正孔対を全ての単位胞について和を取れば対応する秩序パラメーター演算子が得られる。これらからある秩序状態を分子場近似で記述し、そのトポロジカルな性質を調べることを目的としている。 単位胞内に正四面体を有する結晶構造としてパイロクロア構造が知られている。この結晶構造をもつ化合物の中にはAll-In-All-Outスピン配列を示すものがある。この秩序状態は時間反転対称性のみを破るため、ある条件下ではWeyl半金属となることが知られている。このような状況下のAll-In-All-Outスピン秩序相において対応する集団励起を考え、Weyl半金属の際に現れる表面状態へのこの集団励起の影響を調べる。 また、パイロクロア構造を取り入れて実際の物質と比べるには、電子軌道の縮重度を考慮する以外にその電子軌道状態の座標軸と結晶軸との関係を明らかにする必要がある。こういった特徴を取り入れて実際のパイロクロア化合物の性質との比較に耐えられるような理論の構築を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「概要」に示した1つ目のテーマについては、反対称スピン軌道結合項やAll-In-All-Outスピン配列の分子場項を含むハミルトニアンの構築は終了しており、このハミルトニアンに基づいたAll-In-All-Outスピン演算子の静的感受率も波数ベクトルがq=0の点でピークを持つことから、All-In-All-Outスピン構造は安定して出現することがわかった。現時点ではこの秩序状態において対応する集団励起が出現するかどうかを確認することである。これについても数ヶ月の内に確認可能と考えている。 2つ目のテーマについては、当初は正四面体の角に配置する電子軌道をt2g電子軌道にすればよいと考えていたが(実際、既存の論文ではそのようなモデルで様々な解析が行われている)、実際のパイロクロア化合物の結晶構造を見ると、それぞれの角には遷移金属イオンが配置しているがそれを取り囲む酸素イオンの正八面体の座標軸(正八面体の重心を原点と選び、そこから正八面体の角に向けてx,y,z軸をとる)が結晶軸から明らかにずれていることが確認された。これらの座標軸(以下、結晶場座標軸と呼ぶ)は結晶軸に対してある回転を行うことで得られるため、これらの結晶場座標軸で定義されたt2g軌道にの回転操作を行ったところ、t2g軌道だけでなくeg軌道も含まれることがわかった。すなわち、任意の回転操作は角運動量の大きさを変化することはないが、その成分(あるいは既約表現)はお互いに混ざり合ってしまうことがわかった。よって、実際のパイロクロア化合物の物性と比較する場合にはこの回転操作を考慮する必要があることが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
「進捗状況」に示したように、1つ目のテーマについては、まずはAll-In-All-Outスピン構造に対応する集団励起の存在を確認し、表面状態を数値的に計算することによりWeyl半金属になっているかどうかを平均場ハミルトニアンに基づいて計算する。最後に集団励起の表面状態への寄与を研究する。この最後のステップについては現時点では明瞭な方法を見つけられていない。 2つ目のテーマについては、結晶場座標軸から結晶軸への回転を考慮せねばならないことが明らかになったが、球面調和関数と既約テンソルとの類似性に着目すると、これは1電子状態に限ったことではなくそれらの持つ多極子にも同様のことを適用する必要があることになる。パイロクロア化合物Cd2Re2O7は200K付近で空間反転対称性の破れを伴う相転移が観測されているが、結晶構造の変化は微小であるため、主要な秩序パラメーターは規準モードではなく対応する粒子-正孔対によるものだと考えられる。このため、結晶場座標軸から結晶軸への回転の効果を研究しCd2Re2O7の相転移の機構を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:雇用されている場所で予想していたよりも忙しくなってしまい、申請時の予定に比べて学会や研究会に参加できなかった。また、研究者を招待してセミナーを開催するといったことができなかったことが挙げられる。 使用計画:コンピューターの購入、ソフトウェアのアップグレード、研究者の招待、などが挙げられる。
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