前年度までの研究でデータ科学的手法を用いて作成した「超伝導性予測器」を使って、令和元年度は高温超伝導が期待される3元系水素化物の選出と、第一原理計算による検証に取り組んだ。構築したデータベースに含まれる2元系水素化物の全データセットを基に仮想的3元系水素化物のデータセットを作成し、それらを超伝導性予測器に代入して超伝導転移温度を見積もったところ、第1-3族元素で構成される3元系水素化物や第13-16族元素で構成される水素化物で高温超伝導が期待できることを予測した。第一原理計算による検証の結果、カリウム(K)-スカンジウム(Sc)-水素(H)化合物のKScH12が300万気圧で122ケルビンの高温超伝導を示すことが確認できた。また、ガリウム(Ga)-砒素(As)-水素(H)化合物のGaAsH6は実験で検証可能な圧力領域となる180万気圧で98ケルビンの超伝導になることも予測した。これらに加えて、3元系水素化物の熱力学的安定相を効率良く探索するために、進化的アルゴリズムを用いた結晶構造・化学組成同時探索手法の開発にも取り組んだ。 研究期間全体を通して、2元系水素化物データベースの構築、遺伝的プログラミングを用いた超伝導性予測器作成プログラムの開発、高温超伝導を示す新規3元系水素化物の予測を達成し、これらの成果をまとめて令和元年度にPhys. Rev. Bで発表した。このように、研究開始当初の目的である「計算科学とデータ科学の融合」と「超伝導水素化物探索への応用」は計画通り遂行することができた。一方、更なる目標であった「300ケルビンを超える室温超伝導の発見」にはまだ至っていないが、この研究課題で構築した手法や得られたデータを使って、引き続き探索を行う。
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