研究課題/領域番号 |
17K05543
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
大成 誠一郎 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (80402535)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ネマティック秩序 / 超伝導発現機構 |
研究実績の概要 |
鉄系超伝導体BaFe2As2やNaFeAsにおいて、構造相転移温度(Ts)よりも高い温度であるT*から4回対称性の破れ(ネマティック状態)が現れていることが磁場中トルク、NMR等の実験により明らかとなった。我々は高次多体効果を考慮した線形DW方程式を用いて秩序の波数依存性を解析することにより、長年の謎であった Ts < T< T* のネマティック状態の正体は反強的ボンド秩序であることを示した。ここで、ボンド秩序とは自己エネルギーによる相関ホッピングの変調を意味する。この反強的秩序によるバンドの折りたたみ効果により、擬ギャップやシャドウバンドの出現が説明出来る。また、T*における反強的ボンド秩序とTsにおける強的軌道秩序の多段ネマティック転移により、BaFe2As2やNaFeAsの相図が統一的に理解できる。 本研究において、上記の反強的ボンド秩序近傍で発達する反強的ボンド揺らぎによる新しい超伝導発現機構を考慮した。この超伝導発現機構では、従来のミグダル・エリアシュベルグ理論を超えた高次バーテックス補正の効果を取り込むことが可能である。具体的には線形DW方程式の解であるフォームファクターを用いることで、MT項とAL項を含む既約バーテックスの高次項が考慮される。 結果として、反強的ボンド揺らぎにより超伝導の引力相互作用が大きくなり、符号反転の無いS++波が発現することが明らかとなった。この結果は従来の四重極相互作用による超伝導発現機構とコンシステントである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
従来研究されていたネマティック秩序は波数q=0の空間一様な秩序であったが、我々が近年開発したDW方程式を用いることで、秩序のq依存性まで解析することが可能となった。 この進歩により、長年の謎であった、構造相転移温度以上に現れるネマティック状態が反強的なネマティック秩序で理解できることが分かった。更に反強的ネマティック揺らぎを利用する新しい超伝導発現機構を提唱した。 これらの内容は現在論文投稿中である。 以上より、研究手法が着実に進歩し、新しい物理の発見がもたらされていることが明らかである。
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今後の研究の推進方策 |
様々な秩序のq依存性を解析する手法を開発したため、様々な物質で未解明の秩序状態の解析を行う予定である。また、更なる研究手法の開発として、遠距離クーロン相互作用を導入することを考えている。遠距離クーロン相互作用により発現する電荷秩序近傍で現れる新しい複合揺らぎ効果を研究する予定である。また、これらの複合揺らぎ効果によりもたらされる超伝導を研究する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
アメリカ物理学会がコロナ禍の影響で中止になったため、次年度使用額が多くなった。翌年度にも影響が残る場合は、物品費として使用する予定である。
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