研究課題/領域番号 |
17K05545
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
高畠 敏郎 広島大学, 先端物質科学研究科, 特任教授 (40171540)
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研究分担者 |
梅尾 和則 広島大学, 自然科学研究支援開発センター, 准教授 (10223596)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 磁気フラストレーション / 量子臨界現象 / カゴメ格子 / セリウム化合物 / 近藤効果 |
研究実績の概要 |
近藤効果を示すCeが擬カゴメ格子を形成するCeRhSnは,常圧・ゼロ磁場で磁気フラストレーションに起因する特異な量子臨界現象を示すことを昨年度までに見出した。本年度は,その普遍性を確認するために,同じ結晶構造で近藤温度がCeRhSnよりも2倍高いCeIrSnに着目し,その単結晶を育成し,低温での物性を調べた。 単結晶育成とバルク物性測定: 高畠はCeIrSnの単結晶試料を高周波加熱チョコラルスキー法によって育成し,分担者の梅尾,研究協力者として加わった志村,および大学院生が比熱,直流・交流磁化率,電気抵抗を測定した。梅尾は既設の3He-4He希釈冷凍機に組み込める比熱計と磁力計を整備し,一軸圧下での測定準備を進めた。常圧下での磁化率はc軸方向で大きく,電気抵抗はa軸方向で大きいという異方性は,CeRhSnと同じである。熱電能が山をとる温度から見積もった近藤温度TKはCeRhSnの2倍の480 Kである。TKがこれほど高いにも拘わらず,磁化率と比熱/温度は1 K以下の温度領域で発散傾向を示し,その温度依存性はCeRhSnと同様である。磁場をa軸方向に印加すると,6T付近で磁化が約10%伸びるというメタ磁性クロスオーバーもCeRhSnと共通している。このクロスオーバーに伴って,CeIrSnの体積磁歪係数が正のピークを示し膨張することを研究協力者の志村が見出した。 ミュウエスアールと中性子散乱実験: 研究協力者のD.T. AdrojaがCeIrSnのミュウエスアール実験を英国のISISで行ない,最低温度の0.06Kまで長距離磁気転移は無いことを見出した。佐藤(連携研究者)らは,CeRhSnの一軸圧下での磁気秩序を直接捉えるために,米国のONRLにおいて中性子散乱実験を試みたが,磁気散乱反射はまだ見いだせていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CeIrSn単結晶の育成から希釈冷凍機での磁化と比熱の測定装置の立ち上げまで,計画は順調に進んでいる。特に,CeIrSnのカゴメ格子面内のa軸方向に磁場を印加すると,CeRhSnの場合よりも2倍高い磁場でメタ磁性が出現し,体積磁歪係数が正のピークを示すことを見出した。上記の成果は本年度,Physical Review B. に1編とJ. Phys. Soc. Japanに1編の論文として公表するとともに,国際会議で招待講演2件と口頭発表2件を行ったので,おおむね順調に進展していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
擬カゴメ格子面のa軸方向に応力をかけてカゴメ格子の対称性を低下させると,フラストレーションが緩和されて,磁気秩序の発生が期待できる。量子臨界線を過ぎる際の臨界現象と特異な磁気秩序相を系統的に捉えたい。特に,CeRhSnの熱膨張係数がP//aの一軸圧下で示した0.4 K での異常が反強磁性秩序によることを,バルク物性(比熱,磁化率)測定と中性子散乱,ミュウエスアールで確認し,同様の実験をCeIrSnについても行う。一軸圧下での中性子散乱は広い波数範囲を一度に測定可能な米国ONRLのHB-2C WANDで実施し,磁気秩序を検出するとともに,検出された場合は磁気構造を決定する。CeRhSnとCeIrSnの常圧下でのCeの価数の温度変化を測定するために,研究協力者のA. SeveringらがSPring-8で共鳴X線吸収実験を行う。前年度ミュウエスアールと中性子散乱で電子ドープ系Ce(Rh1-xPdx)Snにおいて磁気秩序の発生を見出したので,磁気揺らぎのPd組成依存性を解析し,論文化する。3年間の成果を取りまとめて,理論家の協力を得て,カゴメ近藤格子の量子臨界現象の理解を深める。
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次年度使用額が生じた理由 |
旅費を抑制したため。消耗品費に回して有効に使用する。
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