研究課題
セリウム原子が擬カゴメ格子を形成するCeRhSnは,常圧・ゼロ磁場で磁気フラストレーションに起因する特異な量子臨界現象を示すことを我々は先に報告した。この現象の原因を調べるために,近藤温度がCeRhSnよりも2倍高い同型構造のCeIrSnに着目し, その低温での比熱と磁化に於いて,CeRhSnとよく似た量子臨界現象を昨年度までに見出した。本年度,研究協力者として加わった志村は,CeIrSnの熱膨張と磁歪をアウグスブルグ大で測定し,次のような結果を得た。擬カゴメ格子の面内a軸方向の熱膨張係数は温度を下げると2 K以下で負に転じ,1 K付近で最少となる。最低温の0.05Kでa軸方向に磁場を印加すると,磁歪は負の極小を2 Tに示した後,メタ磁性の起こる6 Tで正のピークを示す。この様に熱膨張係数と磁歪が負となることは,通常の価数揺動Ce化合物では両者が正であることと対照的である。一方,CeRhSnのa軸方向の熱膨張係数は常圧では正であるが,カゴメ面内に一軸歪を僅かに印加すると負のピークを0.5Kに示す。これらの結果は, CeRhSnよりも近藤温度の高いCeIrSnの方が,低温では磁気量子臨界点に近づくという奇妙な関係を示唆する。分担者の梅尾は一軸圧を印加できる比熱計と磁力計を作製し,既設の3He-4He希釈冷凍機に組み込んで試験した。圧力セル自身の信号が試料のものよりもまだ大きいので,圧力セルを改良中である。研究協力者のD.T. AdrojaはCeIrSnのミュウエスアール実験を昨年度に英国のISISで行なった。0.06Kまで長距離磁気転移は無いという結果を,フラストレーションの観点から解析中である。佐藤(研究協力者)らは,CeRhSnの一軸圧下での磁気秩序を中性子散乱実験で直接捉えるために,米国のONRLでの実験を準備したが,原子炉のトラブルの為,実験は延期された。
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