本研究は,重い電子系の研究において停滞していた熱電変換材料への応用研究に新しく挑戦するものである. 本年度は典型的な重い電子系であるCePd3の熱電特性における電子構造の影響に関して詳しく調べた.CePd3は比較的良い金属にも関わらず非常に高いゼーベック係数を示すことが知られており,次世代の熱電材料の候補として期待されている.しかしながらCePd3が高いゼーベック係数を示す詳しいメカニズムは明らかにされておらず,またその熱電特性を向上させるための指針も得られていない.前年度の研究において,CePd3のCeサイトをYbやLuで部分置換していくと,その熱電特性が顕著に劣化していくことを見出した.今年度はこれらの試料に対して,紫外線光電子分光と硬X線光電子分光を行うことで電子構造の変化を明らかにした.紫外線光電子分光は申請者が研究室内で最適化調整を進めてきたMBS社製のA-1アナライザーを用いた装置によって行い,硬X線光電子分光はSPring-8で行った. 硬X線光電子分光によるCe3d内殻のスペクトルの形状は元素置換によってほとんど変化せず,このことからCeの価数がそれほど大きな変化を示さないことが分かった.一方で紫外線光電子分光によるフェルミ準位近傍の光電子スペクトルにおいては,元素置換によって非常に大きな変化が観測された.すなわちCePd3においてフェルミ準位直上に存在していた近藤共鳴ピークは,YbとLuに関わらず元素置換によって急激に抑制されていくことが分かった. 以上の結果は,CePd3に対するCeサイトの元素置換によって局所的には価数が大きく変化することはないが,サイト間の混成が切られることで近藤状態が大きく影響を受けるため,熱電特性の劣化につながるということを示している.
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