研究課題/領域番号 |
17K05553
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
町田 一成 立命館大学, 理工学部, 非常勤講師 (50025491)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 非自明超伝導 / 重い電子系 / 強相関系 / スピン3重項超伝導 |
研究実績の概要 |
当該年度においては主として非自明超伝導体の典型例として(UTh)Be13とSr2RuO4についての研究を実験グループと共同で行った。 (UTh)Be13は超伝導の転移点が2つに分裂することが80年代から知られた重い電子系超伝導体である。この転移点の分裂の原因は不明のまま現在に至っている。最近共同研究者が単結晶作成に成功し、磁場方位を結晶軸に対して制御した実験を行うことが可能になった。今年度においては角度分解比熱測定と磁化実験が行われた。これらの実験の結果によるとこの二段転移は超伝導ー超伝導転移であって、以前筆者が考えていた超伝導ー反強磁性転移等でないことが明らかになった。更には低温における超伝導相のギャップ構造はフルギャップであることも明確になった。これらの結果を踏まえて可能な超伝導対の対称性の分類とその物理的な性質について理論的な考察を行った。立方結晶対称の下で可能なスピン3重項対のうちでサイクリックp波と呼ばれるクーパー対状態が最近の実験並びに過去から蓄積されたデータと最も整合性が良いことが判明した。この状態は(111)方向に点状ノードを有するがバンド計算の結果によるとその方向にはフェルミ面が存在せず、実質的にフルギャップとなる。さらには高温相の同定も行った。当該の2次元表現状態の一つの成分、即ちプラナー状態が高温相として実現している可能性を指摘した。同時に残りの成分、ネマティック状態はThをドープしていないUBe13で実現していることも明らかにした。 Sr2RuO4についても実験グループとの共同作業の中で取り組んだ。当該年においては角度分解比熱実験の理論解析に従事した。主として準古典Eilenberger方程式を用いて実験データを解析した。この系のギャップ構造は面平行な線形ラインノードであるという結論を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね順調に計画した研究課題は進行していると考える。 (UTh)Be13については初期的な実験、理論の考察は終了した。異なるTh-dopingについての単結晶作成とそれを用いた実験の進行をにらみつつ、理論的な考察をさらに先に進める。特にUBe13についての新たな理論的な結論に基づいて従来の実験結果の再検討を行う。 Sr2RuO4については水平ラインノードの結論を踏まえて新たな実験のデザインを考えている。 当該課題の目標である超伝導体のノード決定のための理論創成を実現するために、以上の物質以外の系の探索を行う。
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今後の研究の推進方策 |
上に記述したように概ね順調に計画は進行しているので、この方向の研究をさらに前に進める。特に今後Sr2RuO4に力を注ぐ心算である。水平ラインノードの確証を図るため、中性子非弾性散乱実験を立ち上げた。これは散乱実験によってピンポイントでギャップ構造を探る狙いである。即ち、ラインノードの存在に由来するオーダーパラメーターの符号変化をスピンギャップとして観測する目的である。さらにはこの中性子非弾性散乱実験の拡張として、平行磁場下でのFFLO探索を行うことも考えている。FFLO形成による集団励起モードはこの実験手段が最適である。幾つかの集団励起モードが予想されている。最も可能であるのはordering vector近傍から立ち上がるスピン様励起モードである。その他にもドメインの様々な変形モードが存在すると予想できる。これらを実験の進行状況に応じて理論的に考察する。 重い電子系超伝導体においても、未だギャップ構造の確定していない物質が多々ある。具体的には(UTh)Be13, URu2Si2, UPd2Al3等である。ここまでに築いてきた蓄積を基にしてギャップ構造決定のための分光学的な手段の確立を図る所存である。そうした理論提案をここの物質系に適用する中で理論を更に磨いて行きたい。即ち、準古典Eilenberger方程式を種々のギャップ関数に対して数値的に解き、その背後に潜む共通の物理的な概念を見出すことである。特にVolovikによる渦周りに生成された準粒子のドップラーシフトの描像を精密化することである。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度においては予定よりも物品費の支出が少なく翌年回しとなった。
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