研究課題/領域番号 |
17K05553
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
町田 一成 立命館大学, 理工学研究科, 非常勤講師 (50025491)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 重い電子系超伝導 / カイラル超伝導 / 水平ラインノード |
研究実績の概要 |
申請課題に基づいて最終年度の研究を更に進めた.主な成果を項目を分けて以下にまとめる. (1)URhGe、UCoGe、UTe2等の強磁性超伝導体とその類縁物質の研究.これら一連の超伝導体に観測された特異な形状をした上部臨界磁場 Hc2曲線を理解するために超流動3HeのA相を範にとって理論を展開した.スピン3重項状態に対する一般的なGinzburg-Landau理論を用いて、系の磁化曲線との結合を取り込み、可能な超伝導状態を考察した.それによるとHc2曲線の特異な形状はいずれの物質においても磁場を系の磁気困難軸に印加した時に観測される事実を無理なく理解出来る.またUTe2で見られた圧力下の多重相図もスピン3重項状態の元来有していた縮退が圧力によって解けたと理解することができる.この系に実現しているクーパー対の対称性はdouble chiral状態であると結論した. (2)Sr2RuO4の研究.長年の懸案であるこの物質の超伝導対称性を実験グループとの共同研究を遂行する中で行った.今回は比熱角度分解法によるギャップの形状を研究した.その結果この系は水平ラインノードによって特徴づけられることが判明した.また磁歪実験を行い高磁場低温領域に磁歪の磁場変化に異常が存在することを見出した.これはスピン1重項状態に期待されるFFLO状態に対応することを指摘した.併せて理論的にこのFFLO状態をEileberger方程式に基づいて解析した.FFLO状態に特徴的な磁化、比熱、NMRスペクトル等を総合的に考察した. (3)CeCu2Si2の研究.この重い電子系超伝導体に実現している超伝導対称性の問題は長年に渡っての懸案事項である.従来d波対称であると考えられてきたが、今回の一連の実験と理論との共同研究によってそれを否定し、多バンドのフルギャップ超伝導体であることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)課題申請時には予期していなかった物質UTe2が発見されその特異な超伝導状態が注目を集めている.当該課題においても、これは格好の理論的な対象物質であるとの認識の下にこの物質に注力した.それによって従来申請者の研究視野に入っていなかった類縁物質であるURhGe, UCoGeも含めて総合的にこれらを考察した.その結果これらの一連の物質群に対して統一的な観点からの理解に達することができたのは予想外のことであった. (2)Sr2RuO4については申請者が従来主張してきたスピン1重項状態が最近になって、ようやく一般的に受け入れられるようになった.これはS. Brown等によるNMRのナイトシフト実験によるところが大きいが、ともかくも申請者の予測が正しかったことが立証された. (3)FFLO研究はEilenberger方程式による微視的理論が論文としてまとまった.これを実験的に検証する作業を続行中であるが、なかなか先に進めることができないでいる.念頭に置いている系はSr2RuO4とCeCoIn5であるが、一つにはコロナによる実験室の閉鎖が原因となっている.このために当該課題を一年延長してこれ等の懸案に取り組む所存である.
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今後の研究の推進方策 |
上に述べた各項目について今後の研究の展開について記述する. (1)強磁性超伝導体の研究.URhGeとUCoGeについての多重相図の探求を実験グループの協力を得て遂行する.前者については一軸圧下で超伝導転移点が分裂することを理論的に導いたが、これを実験的に実証することを計画している.また後者についても常圧下で2段転移が起きることを予想しているが、この実験を行う必要がある.0.2K近傍の極低温であるので測定手段も限られ、困難な実験であることが予想される.今までこの温度域の実験は実行されてはいるが、看過されていると考えている.したがって慎重に実験を行い必要がある.類縁物質であるUTe2は世界中で競って実験、理論が進行中であるので、適切な実験、理論を考えることが大事である.国内における強力な実験グループとタイアップしてタイムリーな理論を遂行したいと願っている.double chiral状態に伴ったトポロジカルに興味ある現象、例えばマヨラナ粒子の検出は焦眉の課題である. (2)Sr2RuO4とCeCoIn5におけるFFLOの検出実験を計画中である.前者は平行磁場下でのSTM実験によって試料表面に沿った磁束を観測してストライプ状に空間変調した準粒子状態密度を直接観察することが最もインパクトが大きな実験である.この系の中性子実験は最近再開された原研のJR-3号炉の装置を用いて計画をしている.CeCoIn5についてもH//cの配置においてのHc2=5T直下でのFFLO状態の存在はほぼ間違いないところであるが、実験的な検証はない.これについてもヨーロッパの実験グループとの共同研究が計画されているがコロナで遅れている.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ蔓延の影響で計画していた国内外の研究連絡等が取りやめとなり全体の計画を一年延長した. 次年度においてはこれら予定されていた研究打ち合わせを実行して申請課題を遂行する.
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