研究実績の概要 |
最終年度に当たり、今までに行った研究の取りまとめと将来に向けての研究展開を図った。熱力学量の測定からギャップ構造、取り分けノードのトポロジー(点状、線状)と逆格子空間における位置の決定は超伝導の対称性を同定する上で決定的である。強相関系、即ちここでは重い電子系超伝導の対称性は物質毎に多様であり多角的な実験と得られたデータに基づく理論解析は不可欠である。この作業の延長上に対形成機構の解明があるがそこへ至る道は厳しいものがある。 今年度においては重い電子系超伝導体の中で最近話題を集めている強磁性超伝導体UCoGe、一昨年発見されたCeRh2As2、また従前からの磁場増強超伝導体UTe2に焦点を当てて実験グループとの共同作業の中で個々の物質の対称性の決定を試みた。 また純理論的な立場から上部臨界磁場がCeRh2As2を典型例としてパウリ常磁性限界を遥かに越える物質群が存在するが,その共通原因を探った。近藤格子系特有の局在性と遍歴性の両局面を併せもつ重い電子の形成する準粒子集団の局在の側面が本質的な役割を果たす。即ち外部磁場の増加と共に遍歴電子系、つまり超伝導電子集団は局在電子系からくる交換相互作用を通しての分子場を受けるが、その分子場が外部磁場を打ち消すように作用するとパウリ極限を越える高い上部臨界磁場が達成できるというシナリオである。強磁性超伝導体UCoGeの磁場回転下での比熱を測定することにより逆格子空間でのノードの位置を特定することができる。この実験手法は我々のグループの実験理論共同研究によって確立し、幾つもの成果を上げてきた。しかしながら今回のUCoGeの実験においては(1)試料の質の問題と(2)共存する強磁性相の影響のためにノード構造の決定には至らなかった。
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