研究課題/領域番号 |
17K05556
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
寺嶋 太一 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 機能性材料研究拠点, 主席研究員 (40343834)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 鉄系超伝導体 / ネマチック / elastoresistivity |
研究実績の概要 |
本年度はelastoresistivity測定のためのセットアップを構築した。elastoresistivityとは、結晶に一軸歪みを与えた場合の電気抵抗の変化率である。方位を出して結晶をカットし、電気抵抗測定用の4端子をつけたのち、ピエゾスタックに接着する。ピエゾスタックにはストレインゲージも接着する。電圧を加えピエゾスタックを伸縮させ、試料抵抗の変化ΔRとストレインゲージにより歪みΔεを同時に測定する。elastoresistivityはΔR/Δεで与えられる。鉄系超伝導体においてはelastoresistivityが降温とともに正方晶から斜方晶への構造転移に向けて顕著に増大していき、ネマチック感受率(磁性体で言えば磁化率にあたる)を反映したものと考えられている。elastoresistivityの温度変化が大きいため、測定には試料温度を十分安定させる必要があり、時間がかかる。そこで、試料温度をゆっくりスィープしながら測定し、測定中の温度変化に伴う抵抗の変化を補正する解析法を開発した。これにより、一点一点温度の安定を待つ必要がなくなり、測定が効率化された。 この測定手法を使用して、Ba0.5K0.5Fe2As2、CaKFe4As4、KCa2Fe4As4F2のelastoresistivity測定を行った。これらはいずれも母物質の Feに対し 0.25 個ホールドープした状態に当たる。しかしながら、鉄サイトの局所対称性はBa0.5K0.5Fe2As2のD2dから、CaKFe4As4、KCa2Fe4As4F2ではC2vに低下する。この結果、鉄の dxz, dyz 軌道の縮退がとけ、後二者では軌道縮退が起源のネマチック性は発現しないはずである。ところがelastoresistivityはいずれの物質でも構造相転移に向かって顕著な増大を示した。現在結果の解釈を検討中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、「鉄系超伝導体の相図と電子状態、超伝導状態」を研究することであるが、最初の2年間に引き続き、本年度についても上述のように着々と成果が上がっており、概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度中に上述の成果を論文にまとめ出版したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
鉄系超伝導体の電子状態について新たな知見が得られつつあるところであるが、この夏当機構の液体ヘリウム供給が停止したため、低温実験が充分できなかった。期間を延長して低温実験の追試を行って、最終的に論文投稿をしたい。
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