研究課題/領域番号 |
17K05557
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
鴻池 貴子 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 独立研究者 (70447316)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 有機導体 / ディラック電子 / 磁化率 |
研究実績の概要 |
本研究は,バルク結晶でありながら圧力下でグラフェンと同様の線形分散を持つことが知られている有機導体を対象として圧力下磁化率測定を行い,ディラック電子系特有の磁気物性,特に「バンド間磁場効果による巨大軌道反磁性」を実験的に明らかにすることを目的とする.本研究は,グラフェンでは正確な測定が困難な磁気物性を,有機導体のバルク結晶としての利点を活かして初めて実験的に解明しようとするもので,圧力下有機導体の高感度磁化率測定技術を確立するという点においても大きな意義がある. 圧力下有機導体の磁化率測定にはSQUID磁束計などが用いられてきたが,この手法は圧力セルからの大きなバックグラウンドが加わるため,試料のシグナルを取り出すためには多量の単結晶試料が必要となる.そのため本研究では,高感度測定が可能な磁場変調法による交流磁化率測定法を採用し,1つの単結晶のみでの測定を行った.磁化率測定用のピックアップコイルは内コイルと外コイルの二重構造になっている.2つのコイルは互いに逆向きに巻き付けて,巻き数を1以下の極限までバランスをとるよう調整することで,高感度の磁化率測定を実現した.これに試料をセットして圧力セルで加圧した後,磁場変調のための補助コイルを併せ持つ超伝導マグネットを内蔵した希釈冷凍機を使用して測定を行った.H29年度に行ったグラファイトの測定からは明瞭な量子振動が観測され,磁化率の高感度測定の確立が確認できた.H30年度は有機ディラック電子系にこの手法を適用した.高圧下のゼロ質量ディラック電子系(13.5kbar)における測定からは0.4K以下,2mT以下の非常に限られた領域において大きな反磁性を観測することに成功した.測定は電荷秩序相(3.5kbar),有限質量ディラック電子相(8.5kbar)でも行ったが,低圧ほど反磁性相が安定化されていることが分かった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
交付申請書に記載した平成30年度の研究実施計画の内容をすべて終え,圧力下において磁場変調法による高感度の交流磁化率測定技術を確立することができた.研究の過程で,当初予定していた圧力セルの材質,MP35Nは強度が弱く,磁性も大きいことが分かったため,材質をNiCrAlに変更した.また,バックグラウンドを小さくするため,圧力セルの内部ピストンをタングステンカーバイドからジルコニアに変更したところ,ピストンが数日で割れてしまうことが判明した.そこでジルコニアが圧力に耐えられるよう圧力セルの設計も見直し,改良を行った.また,圧力下の測定の際に,途中で試料がコイルから外れる事例が何度か起こった.試料はコイルボビンにセットした後,綿を丸めたものを詰めることで蓋としていたが,有機導体は強度が弱いため,綿を詰める際に大きな力を加えられないことが原因と考えられる.そこでこの上からさらに薬包紙をワニスで固定することで,試料の落下を確実に防ぐことにした.これらの改良により,当初の計画よりも早い現段階において,対象物質である有機ディラック系物質の圧力下磁化率測定を行うことに成功した.
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今後の研究の推進方策 |
H30年度までに,想定される様々な改良を加えることによって,当初の予定どおり有機ディラック系物質の高圧下磁化率測定技術を確立することができ,理論の予測どおり,本物質において大きな反磁性を観測することに成功した.比較として有機超伝導体の磁化率を測定したところ,超伝導と同じオーダーの巨大な信号が出ていることが分かり,また,ディラック電子系の磁化率の磁場・温度依存性は,超伝導のものと非常によく似ていることが分かった.そこで,H31年度以降は観測された反磁性信号の起源が「バンド間磁場効果による軌道反磁性」によるものなのか,今まで見逃されていた本物質の「超伝導状態」によるものなのかを明らかにする.しかしながら本物質の電気抵抗測定では,低温で絶縁化,もしくは弱い抵抗上昇を起こすことが今までに報告されており,電気抵抗測定からは超伝導の兆候は見られていない.そこで,希釈冷凍機を使用することで今まで報告されていなかった極低温での電気抵抗を測定し,抵抗の減少が見られるかどうかを確認する. また,本物質は圧力変化に伴い,電荷秩序相・有限質量ディラック相・ゼロ質量ディラック相と状態が変化するが,それぞれの相において反磁性信号の振舞いが変化することがわかった.今後はより詳細な圧力依存性を測定し,本物質の磁性実験による温度-圧力相図を決定する.
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次年度使用額が生じた理由 |
H30年度は参加した国際会議の1つが所属部署主催のものであり,旅費がかからなかった.また本年度,想定していなかった予算枠を別途取得できることになり,物品費も削ることができた.差額分はH31年度に精密計測装置の購入や,国内外での学会等の旅費に充てる.
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