研究課題/領域番号 |
17K05559
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
柳澤 孝 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 上級主任研究員 (90344217)
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研究分担者 |
長谷 泉 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 主任研究員 (00357774)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 強相関電子系 / 多体電子論 / 最適化波動関数 / ハバードモデル / 弱強相関クロスオーバー / 高温超伝導 / 反強磁性相関 / 強相関ゆらぎ |
研究実績の概要 |
多体電子系においては、電子間の相関により多彩な現象が実現する。電子相関が強い系の電子状態を明らかにすることは非常に重要である。銅酸化物高温超伝導体は電子相関が強い系であり、高温超伝導も電子相関の結果として起きていると考えられる。 我々は、多体電子系における電子相関効果を明らかにするために、波動関数を改良して最適化し、その最適化波動関数を用いたモンテカルロ法(最適化モンテカルロ法)を開発した。我々の方法においては、波動関数を系統的に最適化できるという利点がある。この手法を用いて、典型的な多体電子系のモデルであるハバードモデルの電子状態を研究した。強い相関により強磁性、反強磁性、超伝導など種々のエキゾチックな新現象が期待できるモデルである。ハバードモデルと共に三バンドのモデルであるd-pモデルも考察した。銅酸化物高温超伝導体には、銅原子と酸素原子から成る二次元面が存在し、電子の伝道をになっており、高温超伝導の起源もこの中にある。d-pモデルは、この二次元面をモデル化したものである。ハバードモデルは、d-pモデルを簡単化したモデルと見ることができる。 我々は、高温超伝導は電子相関が強い領域において可能であることを示した。多体電子系においては、超伝導と反強磁性の競合が重要である。反強磁性が強ければ、超伝導は抑えられて高温超伝導の実現は難しい。反強磁性相関が抑えられた領域では、超伝導が可能となる。我々は、反強磁性が抑えられた状態は相互作用パラメーターを変えることにより実現することを示した。反強磁性相関は電子間相互作用Uが大きくなると共に増大するが、極大を経て減少に転じて、クロスオーバー現象が起こる。クロスオーバーの結果として、高温超伝導が実現する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
最適化波動関数の手法を3バンドモデルであるd-pモデルにも応用し、実際にエネルギーが下がることを示した。反強磁性状態と超伝導状態の安定性を、パラメーターを変えることにより調べた。超伝導相が存在することが明らかになった。ハバードモデルに比べ、d-pモデルでは反強磁性相関が非常に強いことがわかってきた。そのため、反強磁性状態が非常に安定になりやすい。相互作用パラメーターやバンドパラメーター(次近接トランスファーなど)の値を変えることにより、反強磁性相関を制御する必要があるが、実際に、制御可能であることがわかってきた。
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今後の研究の推進方策 |
最適化波動関数モンテカルロ法に基づいて、強相関電子系の相図を明らかにする。超伝導状態と磁気状態の競合およびそれら状態の安定性について、相互作用パラメーターやバンドパラメーターを変えることにより調べる。それにより、高温超伝導が可能なパラメーター領域を明らかにする。また、低キャリアー領域において、相分離の可能性が示唆されている。相分離の有無について最適化波動関数により調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ワークステーションが新しい型に移り変わる時であり、旧型のワークステーションは価格が少し下がっていた。ベンチマーク性能を見ると、ほとんど性能は変わらないことがわかった。そこで、価格が安いワークステーションを購入した。剰余分を次年度使用額とした。また、フォートランについては、すでに保持していたライセンスを使いインストールした。次年度においてライセンスを更新する予定である。
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