研究課題/領域番号 |
17K05568
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
檜枝 光憲 東京医科歯科大学, 教養部, 教授 (30372527)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 超流動 / 低次元 / KT転移 / TL液体 / ボーズ流体 |
研究実績の概要 |
超流動ダイナミクスを研究する強力な方法として機械的応答の周波数依存を測定することがあげられる。平成30年度は主に高周波・広帯域(20~500MHz)における研究手法を確立するために、測定技術確立のベンチマークとしてバルク液体4He超流動の横ずれ音響インピーダンス研究を実施した。液体中の横ずれ水晶振動子の動作は、粒子の平均自由行程と粘性長の大小関係で決まっている。ラムダ温度以上では平均自由行程が十分に小さく(流体領域)、高周波粘性計として動作する。ラムダ温度以下になると平均自由行程が急激に大きくなるため、ある温度以下でバリスティック領域へとクロスオーバーする。この状況では振動子表面と準粒子(フォロン、ロトン)が直接運動量を交換し、超流動相中の準粒子を研究する上で極めて有効なプローブとなる。実験データ(20, 60, 100, 300, 500 MHz)より振動子のQ値の逆数の変化、周波数の変化より、それぞれ有効粘性1、有効粘性2が計算される。有効粘性1、2ともに明確な周波数依存を観測した。また過去に実施された振動ワイヤーを使った低周波実験(1.9kHz)と観測に大きな違いが生じた。有効粘性1については1.6K以下で顕著な周波数依存が観測された。一方で、有効粘性2についてはラムダ温度以下の温度領域全体で周波数依存が観測され、1.5K付近でデータが1点で交差する結果を得た。これらから、①高周波実験ではフォノンの有効粘性への寄与は小さくそのためロトンによる寄与が支配的であること、②1K以下の有効粘性の急減な減少はバリスティックなロトンの寄与が原因であること、がわかった。また2つの理論モデル、①粘弾性モデル、②ロトンの平均自由行程-粘性長比を考慮したkineticモデル、と比較をしたところ、理論①では実験結果を説明できず、理論②で有効粘性の周波数依存の定性的な振る舞いが説明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ナノ構造体により次元制御した低次元強相関ボーズ流体(ヘリウム4)をモデル系として、低次元超流動転移のダイナミクス(コスタリッツ-サウレス転移、朝永-ラッティンジャー流体、他)を研究する。振動振幅、周波数などの測定パラメータを大きく変化させることで、線形応答領域から理論的に取り扱い困難な非線形応答領域までを系統的に調べ、理論研究発展のための標準となる実験データを獲得することを目的としている。 平成30年度は、主にベンチマークとしてバルク液体4He超流動の横ずれ音響インピーダンス研究を実施し、低次元強相関ボーズ流体の超流動ダイナミクスの研究に必要な高周波・広帯域の実験手法を確立した。一方で、世界的なヘリウム供給危機の影響により、下半期の実験が計画通りに進まなかったため、低次元超流動の実験データを得ることができなかった。以上より、次年度以降の研究に繋がる結果を得ている一方で遅れている部分もあり、総合的にみると進捗状況はやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
確立した高周波・広帯域の実験手法を具体的に次元制御したヘリウム4強相関ボーズ流体の研究に応用する。まず、線形応答領域における各種振動子(ねじれ振り子、水晶チューニングフォーク、水晶マイクロバランス(QCM)、表面弾性波デバイス(SAW))測定を実施する。さらに、いろいろな原子相関を持ったヘリウム4ボーズ流体に対して温度スイープ測定を実施する。原子相関制御は、ナノ構造上の粒子数を制御し密度(原子間距離)を変化することで行う。得られたデータから各パラメータ依存(温度、原子相関、周波数、振幅)を明らかにし、既存の理論と定量的な比較検討を実施する。振動子を大振幅でドライブし低次元超流動転移の非線形応答を研究する。また、基盤の他分子表面装飾による拡散長制御を組み合わせてKT超流動転移の理論が破綻する高周波極限を研究する。また、ヘリウムの供給危機が長引く事も考えられるため、液体ヘリウムの供給事情が良好な大学と共同研究を実施することも熟考する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
2018年11月ごろより、世界的に液体ヘリウムの供給が悪化しており、多くの大学・研究機関で計画通りに購入できない事態となった。これにより液体ヘリウムを使った極低温実験が予定通りに実施できなかったため。
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