本研究では撹乱パラメータが存在する場合に与えられた未知の量子状態をできるだけ正確に推定するという量子統計学的な問題の一般的な定式化を目的とし、撹乱パラメータを含む量子状態推定問題において、推定誤差を小さくできるような最適な測定の導出とその特徴づけを研究目標の1つとして取り組んできた。最終年度は、構築した一般理論枠組みを用いていくつかの具体的な推定問題へと応用し、提案手法の有効性を検証した。また、前年度までに得られた研究成果をまとめ論文執筆を行い、学術誌へ5件投稿し既に4件が受理されている。得られた研究成果については国際会議で3件、国内研究会で4件の発表を行った。 重要な研究成果の1つとしては、前年度までに得られた研究成果を発展させることにより、撹乱パラメータが存在する場合における量子統計モデルに対して、その推定精度限界が特定の量子フィッシャー情報量で表現されるための接空間の性質に対する必要十分条件として導出したことがあげられる。これにより、与えられた量子ノイズモデルがどのような場合に効率的に推定できるかどうかについて解析的に判定することができ、その情報幾何学的な意味づけも明らかになった。 もう1つの研究成果として、量子ノイズモデルを特定のモデルに限定されない場合にも有効な推定方法の提案について最終年度に新しく取り組んだ。統計学で知られているロバスト統計を量子状態推定問題に適用し、具体的な量子ガウスモデルに対して外れ量子状態が存在する場合に、提案手法が有効であることを示した。今後はより一般的な理論枠組みを構築し、量子系におけるロバスト統計の方法についての研究が期待される。 本研究の研究成果に興味を持ったグループとの国際共同研究を新しく3つ実施したことも特筆すべき実績の1つである。
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