研究課題/領域番号 |
17K05574
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
礒部 雅晴 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80359760)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高密剛体球系 / 分子動力学法 / 非平衡相転移 / 動的協働促進機構 / 時空アンサンブル |
研究実績の概要 |
近年,高密分子・粉体系の「ガラス・ジャミング転移」それらの類似性に着目した「遅い緩和」を記述する統一的(普遍的)枠組みに関する研究が精力的に行われている.これまで多角的な観点から問題解決の努力がなされてきているが,多くの新しい観点からの研究が絶え間なく創生され,世界中の研究者を魅了し続けている.本研究では,代表者の開発した高密度剛体球系の解析に必要不可欠な高速アルゴリズムならびに新しい解析手法といった方法論を用い,「フリージング(freezing)」「フラジリティ(fragility)」「ファシリテーション(facilitation)」という概念を軸に,理論・実験・計算機シミュレーションによる国際共同研究を遂行している.特に,過冷却(圧縮)液体の動的機構とガラス転移のメカニズムは,熱力学起源の理論と動的ファシリテーション理論(Dynamic Facilitation: DF)との間に論争がある.そのため,熱的起源によらない(密度が唯一の制御変数となる)高密度な非熱系に着目し,分子・粉体・ガラス系へ一般化された動的ファシリテーション機構や時空アンサンブル解析により非平衡相転移の解明することを目標とし,研究を遂行している. 平成29年度は研究計画の初年度であり,(a)フリージング(freezing)」の共同研究(仏国)として高速化の鍵となるイベント鎖のパラメーター最適化と緩和機構の関係性の解明,(b)「フラジリティ(fragility)」「ファシリテーション(facilitation)」の共同研究(中国)としてシミュレーションとコロイド系実験の比較検証,(c)粉体気体の後期緩和過程で顕著となる高密クラスター衝突と衝撃波の発生機構の大規模剛体球分子動力学法による解析,等を遂行した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,3つの研究ステージで構成されている.(I)「フリージング」3次元結晶構造間の安定性(自由エネルギー計算)と融解の動的起源の探求.(II)「フラジリティ」非熱ガラス系の分子をソフト化した際の系の柔らかさとの関係,動的不均一性とひも状の協働促進運動の変化(実験とシミュレーションの比較)と理論検証.(III)「ファシリテーション」高密ガラス・ジャミング転移の励起構造の時空間解析による非平衡相転移の解明.これらの研究遂行のため, (i)「Event-Based Hybrid 高速アルゴリズム」(ii)「近接粒子に対する新しい配向秩序変数と動的多体相関関数法」(iii)「TPS法と時空アンサンブル解析」の3つの新しい方法論を導入し,高密系解析の方法論の確立と非熱分子系の統一的解明をめざしている. 平成29年度は,(a)(I)において高速化の鍵であるEvent-Chain長と緩和機構の関係性を調べた.7月(パリ)と11月(東京)で研究の打ち合わせし,国際共同研究(ENS)を遂行した.(b)(II)に関して,香港理工大学との国際共同研究を発展させた.9月に同大学を訪問(招待セミナー)し,コロイド系実験との比較検証を遂行した.実験においてもDF予想を支持する結果が得られ.新しい緩和機構の存在も観測された.現在さらに詳細な解析を進めている.(c)(III)に関連し,粉体気体の後期緩和過程で顕著となる高密クラスター衝突と衝撃波の発生機構を大規模剛体球分子動力学法により解析し公表した.また,日本結晶成長学会誌解説論文「剛体球系の結晶化」を執筆した.平成29年度は,招待・依頼講演1,論文2(プロシーディングス1,学会誌解説論文1),国際会議2にて成果発表した.(a)(b)は,初年度である程度の成果が得られ,次年度以降の成果発表が期待できる.おおむね当初の計画通り研究が進展している.
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は,本プロジェクトの2年目となる.引き続き,方法論の多角化とブレークスルーを背景に国際共同体制において結果の相互チェックを頻繁に行い,ガラス・ジャミング転移を含めた高密分子系の動的挙動の統一的理解への全容解明をめざす.研究推進の具体的な方策としては,まず初年度で得られた成果を,より広範囲なパラメーター空間にて探索し,データの精密化を系統的に遂行するため,バルク型並列計算に対応できる大容量のファイルサーバを導入するなどの計算機環境を整備する.3つの研究ステージにおいては,(I) Event-Chain MCによる緩和機構の全容解明をめざし,未解決問題である3次元結晶構造(「面心立方格子(fcc)」と「六方最密格子(hcp)」)間の融点付近の動的挙動と最密結晶の安定性問題に適用する.(II)コロイド系実験の結果との比較検証を精密化させ,フラジリティとの関係を明瞭にする.また蓄積した分子の軌道の大規模データより,レアイベントであるひも状の協働促進運動のトリガーとなるソフトスポットと分子の配置構造の関連性をシミュレーションと実験の双方から調べる.(III) ガラス・ジャミング転移の包括的な理解をめざし「3次元剛体球系における動的ファシリテーション機構」の解明並びに近年大きな問題となりつつある剛体球極限でのジャミング転移の振る舞いを調べるため直接計算による「剛体球系におけるジャミング転移」の解明,といった研究遂行の準備を行う.得られた研究成果は原著論文にまとめ,国内外の学会で発表を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究プロジェクト申請時点では,初年度に大容量ファイルサーバ(100万円弱)の導入を予定していた(RAID6,100TBytes級)が,価格・性能とも当初の予想ほど向上していなかった.また研究内容を精査した結果,研究ステージ初年度では,広範なパラメーター領域における大規模な分子軌道データを出力する必然性は必ずしも必要ないこともわかった.そこで研究遂行としては初年度は現在ある研究室の計算機サーバを継続して使用した.また国際共同研究では研究打ち合わせや情報の交換において,インターネットによるテレビ会議ソフトを利用したコミュニケーションが有効であるが,より円滑に行うため使用計画を若干変更し,初年度に大型ディスプレイ環境を整え,次年度初頭に大容量ファイルサーバの導入をすることとした.
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