本研究では、メゾスコピック量子導体を対象に、エンタングルメント・エントロピー(情報エントロピー)と電流と熱流(熱力学的エントロピー)の相関を調べ、情報エントロピーを電流または熱流の測定値から評価する方法を見出し、最終的に「揺らぎの定理」を取り入れた形にまで拡張することをめざした。 H30年度以降の当初の研究計画は、「(A-3) 熱量と部分系の自己情報量の同時確率分布の計算」および、「(B)揺らぎの定理を情報流を含んだ形に拡張する」、の2点である。 「(A-3) 熱量と部分系の自己情報量の同時確率分布の計算」に関しては、H30年度におこなった、量子導体通信路の情報通信路容量の研究を、量子伝送線の場合に拡張した。量子導体通信路では電子(フェルミ粒子)が情報を運ぶが、量子伝送線では電磁場(ボーズ粒子)が情報を運ぶ。具体的にはボーズ粒子のトンネル接合を考え、Renyiエンタングルメント・エントロピーを熱量(信号のエネルギー)についての拘束条件を与えたもとで計算し、ボーズ粒子の場合においても情報の揺らぎ分布、ゼロ次のRenyiエントロピー、分割数そして最大通信路容量を結びつける関係式を示した。また、完全透過の場合は、自己情報量の揺らぎと熱量が線形に相関することを示し、広帯域及び狭帯域の通信路において具体的に自己情報量と熱量の同時確率分布を求めた。成果は現在論文にまとめている。 「(B)揺らぎの定理を情報流を含んだ形に拡張する」に関しては、「2つの分布がどのぐらい近いか?」を測る,相対エントロピーの揺らぎの分布に着目した。相対エントロピー揺らぎの分布の枠組みにより、揺らぎの定理、通信路容量の理論、仮説検定の理論の共通点を捉えることができる。また、量子導体において相対エントロピーの揺らぎ分布を計算することで、固体電子素子温度計の分解能の評価を行っている。成果は現在論文にまとめている。
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