ハミルトニアンが正準変数の2次形式で与えられる系は、力学変数の時間発展がシンプレクティック性をもつことに由来する非エルミート性を内包していると見なすことができることを見いだした。一般に、ボース粒子系のハミルトニアンが粒子数を保存しない項を含む場合には、それが系に内在する非エルミート性の起源になる。このとき、生成・消滅演算子のハイゼンベルク方程式の時間 発展生成演算子であるリウビリアン(ハミルトニアンとの交換関係)が非エルミートになる。すなわち、生成・消滅演算子を基底とするベクトル空間におけるリウビリアンの表現行列は、ハミルトン力学のシンプレクティック性に対応して、擬エルミートである。そして、この空間におけるシンプレクティック内積が保存されることは、ハイゼンベルク演算子の同時刻交換関係が不変量であることに対応する。 典型例として、パラメトリック不安定系のハミルトニアンの複素固有値問題の解を得た。パラメトリック不安定系は逆調和振動子ポテンシャルの下の粒子と等価であり、実連続スペクトルを もつ。非エルミートなリウビリアン行列の複素固有状態に対応して、虚数の振動数をもつ複素固 有モードの「生成・消滅演算子」が求まる。この複素固有モードの消滅演算子により消される状 態としてモードの「真空」を定義し、生成演算子を順次作用させることにより、ハミルトニアンの 複素固有状態の完全系を構成することができる。これらの複素固有状態は、調和振動子の個数状態を非ユニタリ変換した状態で、ノルムは無限大でヒルベルト空間の外にある。完全系をなす離散固有状態は全て複素固有値をもつにもかかわらず、物理的な状態の時間発展はユニタリである。この系が複素固有値をもつことの物理的な意味は、状態がスクイーズされることであり、虚数の 固有振動数は波動関数のスケール変換の拡大・縮小率を与える。
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