研究課題/領域番号 |
17K05589
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
青木 圭子 早稲田大学, 各務記念材料技術研究所, 客員上級研究員 (90252163)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ガラス / 固有構造 / 分子動力学シミュレーション / シンプレクティック解法 / 平均自乗変位 |
研究実績の概要 |
ガラスが緩和する最終的な構造は inherent structure (固有構造) と呼ばれており、局所的な自由エネルギーの谷間(ベーズン)におけるエネルギーゆらぎの中で存在できる準安定な構造である。本研究では、ゆらぎの異方性を許容するようなストレス制御を含んだ分子動力学シミュレーション法を用いることにより、長時間に渡って安定に実現する単成分球形粒子系のガラスの固有状態を研究している。 ソフトマターのためのシンプレクティック解法を用いれば、決定論的な時間発展方程式から熱力学的準安定状態が得られ、熱力学量測定ができる。つまり、従来の方法とは一線を画し、熱履歴に依存することなくガラスの固有状態を得られ、各温度におけるランドスケープを独立にもとめられる。 固有構造によっては、動的不均一性が系全体に広がり、動的性質の測定が困難に陥ってしまう場合も想定されるため、システムサイズ効果も調べ、固有状態の本質的な相関長とシステムサイズとの分離を慎重に行う必要がある。既に、主にシミュレーションを行った粒子数 1344 個の系に加え、2688 および 5376 個の系においてガラスの固有構造を一部得ることができている。また、それらの系において平均自乗変位が急激に立ち上がる温度付近のシミュレーションを詳細に行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに、主にシミュレーションを行った粒子数 1344 個の系に加え、2688 および 5376 個の系においてガラスの固有構造を得ることができた。また、それらの系において平均自乗変位が急激に立ち上がる温度付近のシミュレーションを詳細に行った。 本年度予定している詳細なシステムサイズ効果についての考察を行い、動力学物性とその相関長を明らかにするための基礎データが部分的にそろったことになる。
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今後の研究の推進方策 |
ガラス転移温度近傍で平均自乗変位が急激に立ち上がる現象は、無機ガラスから生体系に至るまで、様々なガラスの実験で報告されている。平均自乗変位が急激に立ち上がる前後の温度で、動力学・熱力学量を詳細に解析する。この現象を調べることにより共通したミニマルな特性を抽出し、ランドスケープの全体像を解明するための足がかりを得る。 また、本研究のシミュレーションにおけるストレステンソル制御では、自発的にシミュレーションセルの体積のみならず形も変化する。自発的ゆらぎからひずみを求め、同時刻の内部ストレステンソルから応力を測定し、それらの長時間データから応力-ひずみ曲線を求めることにより、弾性率を求める事ができる。今後、ガラスの固有構造で形状弾性・体積弾性とその温度依存性を測り、固さと動的不均一性の関係を明らかにしてゆく。ガラスの固いという特徴と動的不均一性との関連性を調べることは、動的な特徴と静的な特徴をつなぐ重要な意味を持つ。
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