2007年,Nohによりノード結合に正の次数相関を持つようにエッジのつなぎかえを行ったERネットワーク上でのパーコレーション転移は平均場型ではない可能性が示唆されたが,これが正の次数相関を持つネットワークの一般的な性質であるかどうかについては不明であった。 現在までの数値シミュレーションの解析結果により,強い正の次数相関を持つネットワーク上でのパーコレーション転移についての詳細なシミュレーションを行い,Nohの計算結果で得られたような,有限サイズクラスター分布の転移点でのピーク消失は見られないことを確認している。得られた数値計算結果は,平成30年9月の日本物理学会秋季大会,および12月にイギリスのケンブリッジ大学で開催されたComplex Networks 2018にて発表された。 また,複雑系の生み出す時系列データをネットワーク化するための手法に関する論文も出版され,学会発表も行われている。この結果は表面上はNohの結果と矛盾するものであるが,本研究はべき乗の次数分布に強い正の次数相関を導入したネットワーク構造を対象としており,両者のネットワーク構造には違いがある。 問題は,この矛盾がネットワーク構造の違いに起因するものかどうかであるが,この点においては,数値シミュレーションによる解析だけでは不十分で,厳密な方程式系から出発する解析的手法が必要であり,これが最終年度(令和2年度)の課題となった。しかし,令和2年度は,所属校での担当(副校長)のため,新型コロナウィルス蔓延に起因する学校運営その他に関する校務が最優先事項となったこと等により,最終年度の解析結果を発表するに至っていない。加えて,年度末に研究代表者(谷澤)が現研究機関から転出することとなり,本研究課題を終了せざるを得なくなったが,解析結果については,研究終了後とはなるが,できるだけ速やかに公表すべく準備を進めている。
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