研究課題/領域番号 |
17K05598
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
森脇 喜紀 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 教授 (90270470)
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研究分担者 |
松島 房和 富山大学, 大学院理工学研究部(理学), 教授 (40142236)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 超伝導 / 微粒子 / トラップ / レーザーアブレーション / 超流動ヘリウム / ナノ粒子 |
研究実績の概要 |
トラップした超伝導インジウム微粒子にレーザー光を照射することにより微粒子を平衡位置から移動させることが可能である。その後レーザー光を遮断することによりこの微粒子はトラップポテンシャル中を運動する。この運動には磁場と超流動ヘリウムから受ける力が作用しており,微粒子の超伝導物性や形状,大きさを反映している。そこで,いくつかの大きさの異なる微粒子について1.1~2.1Kの様々な温度でこの運動の時間発展を実験的に測定し,その様子を球形反磁性微粒子を仮定したモデルにより解析した。超流動ヘリウムの粘性について既存のデータを用いて微粒子径が求められた。また実験中に生成した微粒子を個別に回収する機構を作成し,実験終了後に回収した微粒子を電子顕微鏡により観察しその形状や大きさを測定した。2つの測定値がほぼ一致する事から,モデルの妥当性が検証された。この手法により,微粒子のサイズをその場で非接触に測定することが可能となった。 またレーザー照射により微粒子に作用する力は,所謂光子の運動量に基づく光圧に比較して桁違いに大きく,レーザー光を微粒子が吸収することにより生じた熱による効果であると考えられる。この力を用いて微粒子の運動を光により制御する技術へと発展できると考える。 空間に保持された微粒子は光散乱の格好のモデルとなりうる。光散乱を調べることにより超伝導物質の光物性の情報が得られると考えられる。今回,クライオスタット内の散乱光に影響を受けない散乱光観測手法を開発し,インジウム超伝導微粒子からの光散乱が測定できるようになった。散乱強度の散乱角依存性は,常伝導での光学パラメータを用いたミー散乱モデル計算と概ね同様な様子である。更に実験条件を調整して詳細を調べていく。超伝導体の光ミー散乱の実測データは我々の調べた範囲では存在しないため,初めての測定を可能にしたとの意義がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超流動ヘリウム中でレーザーアブレーションにより生成したインジウム微粒子の磁気トラップを用いて,微粒子をレーザー光により移動させた後の微粒子の運動の様子を観測し,その大局的な物理現象をモデル化して説明できた。この手法により微粒子の大きさをその場で非接触に測定することが可能となった。トラップした微粒子によるミー散乱を測定する手法がほぼ確立できた。この手法は,真球の超伝導微粒子を作成し,空間に捕捉する点で,光学測定としては理想的なシンプルな系を提供している意義もある。また,超伝導体からの光ミー散乱としては初測定であると考えられる。これらのことから上記のように判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き下記3点について研究推進する。 (1) 超流動ヘリウム中で生成されたレニウム微粒子の超伝導転温度の測定 超流動ヘリウム中で生成されたレニウム微粒子の超伝導転移温度が4.2K以上であることが分かっているが,その上限温度は現在の装置の上限温度で決まっている。そこで,圧力セルなどを導入することなどにより実験上限温度を高める,あるいは,別の手法による転移温度の測定手法を開発する。 (2) レニウム微粒子の超伝導転移温度が高くなる機構の解明 超伝導転移を測定した微粒子について電子線あるいはX線等を利用して構造解析することにより, 転移温度上昇の機構を探る。 (3) 超伝導転移温度と微粒子径の相関を測定するためのトラップされている微粒子の大きさを光学的に測定 一つには,顕微鏡などを用いて微粒子からの散乱光を観察し,その大きさを推定する方法を確立する。また一つには,ミー散乱による散乱光を測定することにより,その大きさを推定する。これらをトラップ粒子を運動させることにり,粘性などとの関係から求められる大きさや,最終的に落下させて回収した微粒子の電子顕微鏡像による大きさとの比較を行い,手法を検証する。さらに, レーザーが超伝導微粒子を押す力について,レーザー波長への依存を詳しく調べ,その力の機構を解明する。また,ミー散乱の本格的な測定を行う。これらの手法について,他の物質についても測定することにより現象の普遍性を検証する。
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