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2018 年度 実施状況報告書

誘電体微粒子の単色熱放射

研究課題

研究課題/領域番号 17K05603
研究機関明治大学

研究代表者

立川 真樹  明治大学, 理工学部, 専任教授 (60201612)

研究分担者 金本 理奈  明治大学, 理工学部, 専任准教授 (00382028)
小田島 仁司  明治大学, 理工学部, 専任教授 (50233557)
研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード熱放射 / 微粒子 / 光トラップ / 共振器QED
研究実績の概要

白熱球などマクロな物体からの熱放射は、Planckの放射法則でよく記述できる。一方、ミクロな原子からの発光は原子固有の線スペクトルである。物体が小さくなるにつれて熱放射のスペクトルはどのように放射体の個性を獲得していくのか?我々は、光トラップで捕捉した単一の誘電体微粒子の熱放射スペクトルを計測し、熱放射のサイズ効果を検証しようとしている。
今年度は、ミクロンサイズの球形ルビー微粒子を対象として、アルミナ母体結晶にドープされたCrイオンの共鳴線(R線)が、球状共振器の固有モードであるwhispering gallery mode (WGM) の影響で、どのような発光特性を示すのかを調べた。一般に、原子の自然放出確率は、原子が存在する空間の電磁場のモード密度に依存する。ルビー微粒子からの熱放射においても、R線の発光がWGMと整合した時に増強される共振器QED効果が観測された。WGMのQ値とモード体積から、R線の自然放出レートは自由空間と比較して数倍程度大きくなっていることが明らかになった。
一方、Mie散乱の理論に基づく計算によると、粒子径が小さくなるにつれてWGMの共鳴構造は長波長側から順に消失していく。WGMが消えた赤外域には物質に固有の鋭い共鳴線が現れる。この赤外共鳴は、有限サイズのイオン結晶の表面フォノンポラリトンであることが分かっており、ナノレベルまで縮小した微小結晶の熱放射はこの共鳴周波数に単色化すると予想される。光トラップされた単一微粒子の赤外分光は感度不足であることが前年度までに判明したため、今年度は金属表面に分散させた微粒子集団からの赤外熱放射を、FTIRにより観測した。シリカ微粒子からの熱放射スペクトルは、バルクのガラス板では放射が抑制される波長域に強度分布を持つことが明らかになったが、現在までに表面フォノンポラリトンの明確なピークは観測されていない。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

2017年度の研究結果から、単一微粒子の赤外熱放射スペクトルの観測には、FTIRやサーモカメラなど汎用検出器の感度が不足していることが明らかになった。そこで2018年度は、光トラップによる空間捕捉をいったん放棄し、複数の球形微粒子を放射率の小さい金属表面に分散させた試料を対象としたFTIR観測を開始した。現時点での遅れは、このような大きな方針転換によるものである。
表面フォノンポラリトンの共鳴構造は、微粒子の形には強く依存するが、大きさにはあまり依存しない。そのため、形状のそろった微粒子集団であれば、粒径分布によらず明確なスペクトルが観測できると期待される。研究実績の概要に示したように、シリカ微粒子の熱放射スペクトルがバルクのそれと異なる様相を見せているが、表面フォノンポラリトンと思われる明確な構造は見出されていない。これは、金属上で微粒子が凝集して不定形となっているためである。粒子同士の凝集を防ぎかつ観測視野内になるべく多数の孤立粒子を配列する手段の確立が急がれる。

今後の研究の推進方策

熱放射における表面フォノンポラリトンの観測については、微粒子集団からの熱放射のFTIR分光がより有力な手段と考え、前述の問題点の克服に努める。微粒子同士の凝集を防ぐ対策として、マイクロミストの利用を考えている。微小液滴(マイクロミスト)に微粒子を分散させておき、それを金属面に噴射する。金属面上で溶媒が蒸発した後には、微粒子が互いに距離をとって配列すると期待される。一方、現在は試料からの熱放射を凹面鏡によるコリメーションを経てFTIR分光計に導入しているが、微粒子集団の信号に常温の背景放射や支持台金属からの熱放射の信号が重畳している。微粒子の熱放射の背景放射に対するコントラストを上げるためには、視野を微小な領域に限った顕微FTIRが有効であり、このための光学系を構築する必要がある。

次年度使用額が生じた理由

[理由] サブミクロンサイズの微粒子の熱放射の赤外分光に際し、単一微粒子を半導体検出器で測定する当初計画から、同一形状の微粒子集団の放射をFTIRで測定する方法へ方針転換を行った。そのため、HgCdTe検出器用の光学部品に充てる費用が余ることになった。一方で、FTIR分光は初めての試みであったため、問題点の洗い出しと方針決定に1年を費やすこととなり、研究費の支出が発生しなかった。
[使用計画] 顕微FTIRのための新たな光学系の整備が必要であることが分かったので、そのための光学部品の費用として支出する予定である。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2018

すべて 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件)

  • [学会発表] Morphology-dependent thermal radiation from micron- and submicron-sized dielectric particles2018

    • 著者名/発表者名
      M. Tachikawa, H. Odashima, R. Kanamoto, H. Tajima, and R. Morino
    • 学会等名
      The 26th International Conference on Atomic Physics
    • 国際学会
  • [学会発表] Quantum reflection of ultracold atoms by a spherical surface2018

    • 著者名/発表者名
      T. Yamaguchi, R. Kanamoto, and D. Akamatsu
    • 学会等名
      The 26th International Conference on Atomic Physics
    • 国際学会
  • [学会発表] Optical trapping of ice crystals and its application in cloud physics2018

    • 著者名/発表者名
      M. Tachikawa and K. Nakao
    • 学会等名
      The 45th Annual European Meeting on Atmospheric Studies by Optical Methods
    • 国際学会
  • [学会発表] ルビー微粒子からの熱放射におけるPurcell効果2018

    • 著者名/発表者名
      高橋和裕, 竹井敦史, 井上和宏, 竹澤隼, 小田島仁司, 立川真樹
    • 学会等名
      日本物理学会2018年秋季大会

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公開日: 2019-12-27  

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