研究課題
氷点下の氷表面には疑似液体層(QLL)と呼ばれる薄い液膜があり、表面物性や表面化学反応に強く影響を与えることが知られている。最終年度も引き続き、HNO3、HClといった酸性ガスがQLLに与える影響をレーザー共焦点微分干渉顕微鏡によって調べたところ、以下の結果が得られた。(1) 温度上昇に伴うQLL出現温度は、-2℃前後のまま変化しなかった。ただし、酸性ガスが無い場合は孤立したQLLが多数出現するのに対し、酸性ガスが有る場合は、結晶表面全体に1つの大きなQLLが出現した。(2) 温度低下に伴うQLL消失温度は、酸性ガス濃度が増すにつれ低下し出現温度とのヒステリシスが見られた。地球大気程度のppbオーダーでは-6℃、さらに濃い濃度になると-30℃まで下げても消失が確認できなかった。(3) QLLには酸性ガスが溶け込むことで酸性溶液となっていることがわかった。温度、水蒸気分圧、酸性ガス分圧に応じ、QLL-氷間では氷の融解やQLLの凝固、QLL-気相間ではQLLからのH2O・酸性ガス成分の蒸発や凝縮といった反応が起こっていた。また、実際には前者の反応が後者よりも速いため、QLL-氷間は平衡に近い状態が保たれていることがわかった。【結論】酸性ガス存在下でのQLLはより低温で安定に存在すること、ただし出現と消失温度との間にヒステリシスが存在するため同一温度でもQLLが存在する場合と存在しない場合とがあること、QLLが酸性溶液となるため溶液化学反応が促進される可能性があること、などがわかった。
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