研究課題/領域番号 |
17K05612
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
荒木 武昭 京都大学, 理学研究科, 准教授 (20332596)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高分子鎖 / 混合溶媒 / 相分離 / 臨界カシミール効果 / 数値シミュレーション |
研究実績の概要 |
水・油混合系のような混合溶媒における電解質高分子のコンフォメーションの変化、またそれが及ぼす電解質高分子溶液の物性の変化を、数値シミュレーション、理論解析を用いて調べた。温度、混合比を変え、混合溶液の相分離点に近づけると、電解質高分子の周りで、電解質高分子と親和性の高い成分の濃度が増加する。その濃度変化の雲が重なると、界面張力、(または臨界カシミール力)により、電解質高分子鎖のモノマー間に実効的な引力が生じ、コンフォメーション変化が起こることが、これまでの研究で分かっている。具体的には、混合溶媒の相分離点から離れると、電解質高分子は直鎖状に伸びたコンフォメーションを取り、相分離点に近づくと、コンパクトなグロビュール転移を示す。これを多数の高分子鎖を有する高分子溶液系に拡張したい。 H29年度は、混合溶媒を濃度場として扱ってきたが、H30年度は、より直接的に混合溶媒の濃度ゆらぎを扱うべく、粗視化分子動力学シミュレーションによる研究を行った。高分子溶液鎖をバネ・ビーズモデルで表し、2種類の溶媒分子を相互作用パラメータの異なる球状粒子で表し、熱浴中での分子やモノマーの運動に関する運動方程式を数値的に解いた。相互作用パラメータや、混合比、温度を変えることで、高分子溶液の振る舞いが大きく変化することが示された。混合溶媒はバルクでは均一であっても、高分子鎖と親和性の高い溶媒成分が高分子を覆い囲むように分布する。それが高分子の凝集や相分離を引き起こすことが分かった。 また、単成分溶媒の場合において、相分離ダイナミクスを調べたところ、急冷直後に系が過渡的にゲル化することも分かった。実験で観測されている粘弾性相分離現象の物理的機構の解明につながるものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、混合溶媒中の高分子鎖の振る舞いについて調べてきた。H29年度は、高分子鎖の構造は顕に扱わず、コンパクトなグロビュール状になっていると仮定して、混合溶媒中の濃度ゆらぎが、高分子のクラスター形成にどのように影響するか、またそれが系全体の粘弾性に寄与するかについて調べた。その際、高分子のコンフォメーションや、溶媒分子の直接的な運動は考えていなかった。 H30年度は、手法を大きく変え、多数の高分子鎖のコンフォメーションや、溶媒分子の運動を直接的に扱うモデルを考案し、高分子溶液の相分離ダイナミクスを調べてきた。その結果は、高分子溶液において実験的に観測されている粘弾性相分離現象の定性的なメカニズムの解明につながっている。さらに、それらを発展させ、2種類の溶媒分子を導入し、溶媒分子間、高分子・溶媒間の相互作用が、高分子のコンフォメーションにどのように影響を及ぼすかについて調べてきた。研究計画通りではないものの、予想外の進展もあり、概ね順調に遂行できているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度とH30年度の研究では、高分子鎖として高分子電解質ではなく、電気的に中性なものを扱ってきた。今後は、高分子に電荷を与え、溶媒中にイオンを導入することにより、電解質高分子の振る舞いを調べていきたい。 近年、世界的に高分子に対する混合溶媒に関する研究に大きな進展がみられている。具体的には、混合溶媒の成分の不均一性が重要か、より分子レベルのアプローチが有効かという問題が活発に議論されている。本研究は、前者の立場をとってスタートしたが、分子動力学シミュレーションにより微視的な手法にも取り組むことができるようになり、理解も深まってきた。固定概念に捕らわれることなく、現象を理解していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
日本物理学会年会に出席するため、2018年3月13日から16日までの3泊4日の日程で、国内出張を計画していた。しかしながら、出張直前に学内で重要な会議が入ったため、旅程を短縮し、3月14日~15日の1泊2日の参加となった。この日程変更のため、宿泊費、日当に関し、2泊2日分の差額(31,000円)が生じたが、伝票処理の期限を過ぎていたため、追加の予算の使用は行わず、次年度に繰り越すこととなった。 繰り越した分の予算は、旅費として使用する予定である。
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