研究課題/領域番号 |
17K05613
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
田中 晋平 広島大学, 総合科学研究科, 准教授 (40379897)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アクティブマター / 自己駆動現象 / 生物的運動 / 集団運動 |
研究実績の概要 |
これまでの研究により、液滴系の生物的運動を駆動するメカニズムに影響を及ぼすいくつかの重要な因子を発見した。その中で重要なものの一つは気相の有機溶媒濃度である。そこで、気相中の有機溶媒濃度を制御できる装置を開発し、この有機溶媒濃度を通して液滴系の運動を制御できるようにした。この研究の結果、液滴系の運動をON/OFFできる条件を発見することができた。すなわち、気相が飽和状態にあるとき、液滴は運動を停止し、気相中の有機溶媒濃度を低下させると液滴は運動を開始する。しかし、詳細な実験によって一旦液滴が停止した後に再開した運動は、気相が飽和するまでに液滴が呈していた運動とは異なることが明らかになった。これは液滴の運動が気相中の有機溶媒濃度のみに影響されているのではなく、他の要因、例えば液相中の有機溶媒濃度などにも影響を受けていることを示唆している。現在、詳細な実験によってより繊細に液滴系を制御する条件を探索している。 もう一つの成果は、本研究で明らかになった生物的液滴運動と同様の運動を示す系が少なくとももう一つあることを明らかにしたことである。この系は化学物質としても、液滴が存在する物理的な環境としても全く異なる系であり、このような系で同様の運動モードを見いだせたことは、本研究でターゲットとしている運動モードの普遍性を示唆しており、重要な知見であると考えられる。この成果は Collids Surf. A, 566, 141-147 (2019)に発表済みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、液滴の制御システムの開発し、その利用によって液滴系の運動メカニズムを解明することを計画していた。これまでに気相中の有機溶媒濃度を制御することによって液滴系の運動を制御することに成功しており、ここまでは研究は予定通り進行していると言える。一方で、この制御方法では、液滴系の運動を完全に可逆的に制御できるわけではないことも明らかになってきている。その原因は未だ明らかではないが、気相のみならず液相中の有機溶媒濃度も液滴の運動に影響していることが一因であると考えている。この知見は液滴運動のメカニズムを考察する上で重要な知見であるが、液滴運動を制御するという観点での気相濃度制御に問題があることも示している。また、これまでの研究によって、当初予定していた化学物質系とは異なる化学物質系においても同様の駆動現象が見られることが明らかになった。これはこのような生物的液滴運動が、物質系によらず実現する、普遍的なものであることを示唆している。以上のような知見は液滴運動のメカニズム解明に利用できる重要なものであり、本研究の進展は概ね当初予定の通りであると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究によって、気相中の有機溶媒濃度の制御による液滴運動の制御は、可能であるものの、すべての運動モードを自由に実現できるものではないことが明らかになった。よって今後は他の液滴制御方法の開発、例えば液相における有機溶媒濃度の制御なども検討し、より完全な液滴の運動制御を実現することを考えていく。液相中の有機溶媒濃度の制御は、気相中の有機溶媒濃度の制御と基本的には同様の考え方によって実現できる。ただし、実験装置はかなり異なるものが必要となるので、今後はそのような装置開発を行うことになる。さらに、本研究でターゲットとしている液滴運動の普遍性をより明白に示すため、いくつかこれまで利用していない化学物質系の利用も考える。このように、新たに開発する制御法およびこのような新規物質探索によって、液滴の駆動メカニズムのより詳細な解明を目指す。
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