本研究では、界面活性剤水溶液の水面上に置かれた、有機溶媒の液滴集団の動的挙動を実験及びシミュレーションによって研究した。これまでの研究により、有機溶媒液滴は、溶け出した有機溶媒によって形成される、周囲の表面張力場の勾配によって駆動されることがわかっている。このような自己駆動液滴が多数存在するとき、複雑な動的挙動が観察される。 まず、実験および実験結果の解析から、有機溶媒の液滴間には複雑な相互作用が働いていることを明らかにすることができた。相互作用は引力的にも、斥力的にもなる。また、相互作用は時間的に変動し、液滴の相互配置に依存する。液滴の自己駆動が液滴自身が作り出す変動する表面張力場によって引き起こされていることから、液滴間の相互作用も、同様に液滴によって作り出される表面張力場が介在していることが予想される。 本研究では、具体的にどのようなメカニズムでこの表面張力場が形成され、それがどのように液滴を駆動し、また液滴間の相互作用を生み出しているのか、反応拡散方程式に液滴の運動方程式を結合させた数理モデルを用いて解析した。このようなモデルは、樟脳粒子の自己駆動現象を説明できるものとしてよく知られているが、粒子から溶け出した界面活性剤の効果のみでは、我々の観察結果を再現できない。 この問題の解決のために、我々は、この系に存在するもう1種の界面活性剤に着目した。有機溶媒液滴は、界面活性剤の水溶液表面に浮かんでいる。この水溶液中の界面活性剤と、溶け出した有機溶媒との反応を考慮に入れたモデルを構築し、2種類の界面活性剤による界面聴力場と、それによる液滴の駆動をシミュレートした。その結果、このような反応による界面活性剤濃度の変動が、液滴間の相互作用をうまく説明できることを明らかにすることができた。また、実験的にもっともらしいパラメータで液滴集団挙動を再現することに成功した。
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